森林における鳥獣被害の現状

森林における鳥獣被害の現状

野生鳥獣の生息域の拡大等を背景として、シカやクマ等による森林被害が深刻化しています。被害面積は、全国で約8,000ヘクタール程となっており(東京ドーム約1700個分)、このうちシカによる被害が約8割、シカ以外(ノネズミ、クマ、カモシカ、イノシシなど)による被害が残り2割を占めます(林野庁平成27年度のデータより引用)。

特に、新たに設立された林業の植地(新植地)は、これらの被害に対して脆弱です。新植地では、比較的やわらかな葉を持つヒノキの被害が目立つものの、スギをはじめ、すべての植栽木が食害に遭います。特に広葉樹の植栽木はほとんど食べられてしまいます。これらの食害によって、樹木の発育不良、枝分かれや死滅が発生する可能性があり、造林上の大きな障害となります。

また、未来を担う稚樹を含む下層植生※が消失し、林床が裸地化してしまうことによって、土壌が流出し崩壊地が発生する等、国土にとってもさまざまな弊害が懸念されます。

森林のもつ多面的機能への影響だけでなく、森林そのものの存在自体が危ぶまれる状況にもなりかねないのです。

※下層植生:森林において上木に対する下木(低木)や、草本類からなる植物集団のまとまりのこと。上層木とともに、その地域に特徴的な植生を示し、その土地の環境を知る上での指標となります。

また、森林被害を引き起こす獣類の増加にともない、ヤマビルやマダニの増加もみられます。ヤマビルは山地の奥地に生息していましたが、シカの分布拡大などで山麓まで生息域を拡大しています。また、マダニも野生動物が出没するような環境に多く生息する傾向があり、野生動物の増加によって被害が増えてきています。

マダニやヒルの駆除は、シカ等の獣類の増加と表裏一体であるため、急には減らせないのが現状です。

シカによる森林被害


シカは、どちらかというと山中よりも平坦地を好むため、昔は山の中よりも平坦地に数多く生息していました。しかし、人間の開発等によって、シカは山中で生息するようになりました。食料となる下層植生が豊富にある伐採跡地や、姿を隠せる樹林がまばらに存在するような森林環境を好みます。また、尾根沿いの平坦地や、陽当たりの良い緩斜面を好み、そのような場所での森林被害が目立ちます。

シカの生息分布は戦後大きく拡大しており、1978年から始まった調査によると、36年のあいだに分布域を約2.5倍に拡大しています。特に東北地方や日本海側などの積雪の多い地域の拡大が目立ちます。シカは繁殖力が高く、エサの条件がよければメスは毎年妊娠するため、捕獲しないと年率約20%で増加し、4~5年で個体数は倍増すると言われています。

シカの個体数は、平成25(2013)年度末のデータで300万頭を超えており、平成元(1989)年の個体数のなんと10倍に迫る増加を示しています(林野庁データを引用)。さらに、現在の捕獲率では、10年後(平成35年度)には453万頭と1.5倍に増加することが予測されています。

森林におけるシカ被害としては、更新地等での植栽木等の食害があります。

シカの生息密度が高いエリアの森林では、シカは飢えれば何でも食べるので、シカの口が届く高さの枝葉や樹皮、さらには下層植生がほとんど消失してしまっている場合もあります。

またシカによる樹皮の剥ぎ取りも森林被害として深刻な問題です。剥皮は、シカが樹皮や形成層を食べることによるものと、オスの角こすりによるものがあります。剥皮によって傷ついた樹木は感染する可能性があり、また傷ついた樹木の下部が多く傷つくため、樹木の最も貴重な部分の品質が低下してしまい、林業家にとっても深刻な問題となっています。

シカ以外による森林被害


シカによる被害に比べると、割合は多くありませんが、クマやノネズミ、ノウサギ、エゾジカなどによる森林被害もあります。

ノネズミ、ノウサギによる森林被害

野ネズミのうち、被害をもたらすのはエゾヤチネズミとムクゲネズミで、植栽木の樹皮及び地下の根等の摂食などによる食害です。エゾヤチネズミは、ユーラシア大陸に広く分布するタイリクヤチネズミの亜種で、日本では北海道だけに生息しています。

日本では、北海道を除いてノネズミによる林業被害は大きな問題となっておらず、ムクゲネズミは環境省のレッドリストで準絶滅危惧とされるなど、生息範囲は限られている状況です。一般的には、カラマツやスギが被害を受けやすく、これらに比べるとグイマツ、アカエゾマツ、トドマツは被害を受けにくいですが、いずれの樹種にも被害の発生が報告されています。

また、ノウサギによる森林被害については、広範囲にわたって枯死するような被害はまれで、報告されているのは被害の一部のみだと推測されます。被害を受けても被害木が生き残っていることが多いため、実態が十分に把握されていません。特に、広葉樹はノウサギを受けやすいと言われており、食害を受けると枯死に至らなくても誤伐などの危険性が高まるため、注意が必要です。

クマ、エゾジカによる森林被害

エゾシカは、日本列島やユーラシア大陸東部に分布するニホンジカの亜種で、日本列島のニホンジカのなかでは最も大型のものです。かつては北海道に広く分布していましたが、明治時代の乱獲や大雪により個体数が減少しました。しかし、近年は北海道の東や日高地方などに残っていた個体群が急増しています。

エゾシカによる被害は、広葉樹やカラマツ類に多く報告されています。広葉樹は植栽面積が少ないため被害面積は小さいものの、被害を受けている割合は高いといえます。エゾシカ被害を受けやすい樹種には、地域によって多少違いがあり、ある地域では被害のなかった樹種が、別の地域では集中的に食害を受けることがあるため、地域ごとに被害状況を把握する必要があります。

クマによる森林被害は、立木の樹皮を剝ぎ、壮齢木の樹皮を歯や爪で剥ぐ「クマ剥ぎ」です。立木の枯損や木材としての価値の低下等の被害を引き起こします。特に伐採適期以上の大径木の被害が顕著な傾向にあります。経済的な損失が大きいため、森林所有者らの林業経営意欲に与える影響も大きいです。また、クマの主なエサの一つである堅果類(ミズナラ等のドングリやブナの実)は、数年周期で豊作と凶作を繰り返すため、凶作の年の場合、農地や集落への出没が増える傾向がみられます。

その他の森林被害

イノシシは農業における被害が多いですが、森林においては、竹林におけるタケノコの食害やシイタケ等の食害が主となっています。

カモシカによる主な被害は、幼齢木の枝葉の摂食ですが、一部地域ではほかに壮齢木への角こすりも発生しています。食害された幼齢木は、枯死したり、成長を著しく阻害されます。カモシカによる森林被害は、昭和50年代前半の約3,000ヘクタールをピークに大きく減少しています。

総合的な獣害対策の重要性

森林生態系や生物多様性の保全等の観点から、たとえ森林被害の原因となる野生鳥獣であっても森林内から完全に締め出したり、根絶してしまうわけにはいきません。

また、森林地帯における獣害対策は、農地や住宅地などのように、防護柵などの防除技術をそのまま用いるだけでは根本的な問題解決に至ることは非常に難しいと考えられます。シカは広大な森林内を自由に往来する上、傾斜などの地形、積雪量などの気象条件等も千差万別であるためです。

そのため、以下の対策を総合的に進めていく必要があります。

  • 箱罠などを用いて、地域内で増え過ぎたシカ等を捕獲等によって適正な頭数に管理する「個体数管理」
  • 守るべき対象(造林地、貴重な植生など)を防護柵などによって守る「被害の防除」
  • 野生鳥獣の生息環境に手を加え、鳥獣を遠ざけることにより棲み分けを図る「生息地管理」
  • たとえば、神奈川県丹沢では、10年以上にわたって小型の植生保護柵が多数設置されていましたが、設置年の古い柵ほど絶滅危惧種を含む多年生草本とスズタケが回復していることが分かりました。しかし、設置と維持のコストを考慮すると、植生保護柵の効果には限界があり、個体数管理との連動が強く求められている状況です。

    地域ごとに猟友会や自治体による捕獲努力が続けられていますが、総合的に獣害対策の実行体制を工夫しなければならない段階に入っているのが現状です。

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