仕事をしながら狩猟をする
- イノホイ会員さま
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淵田 瑞穂さん
(イノホイ歴:4年)
当社では鳥獣被害対策用品を販売しておりますが、狩猟に関する情報が集めにくいという声も多く寄せられております。
そこで私たちは、実際のお客様のリアルな声を発信することで、初心者から上級者まで、狩猟に関わるすべての人に、なにかの気づきや安心感を提供したいと考えました。
今回取材させていただいたのは、熊本県球磨郡錦町にお住まいの淵田 瑞穂(ふちた みずほ)さんです。イノホイ歴は4年。
働きながら狩猟をされる大変さや苦労話などを中心にお話を伺いました。
捕獲して個体数を減らすことが大事
自宅の倉庫
淵田さんについて
淵田さんは現在43歳。
地元の球磨酪農農業協同組合に勤めています。
球磨酪農農業協同組合では、生乳を集めて学校給食の牛乳として提供しているほか、育成牧場を運営しています。
この育成牧場では酪農をやっているわけではありません。
乳牛は分娩しないと牛乳が出ないため、6ヶ月齢くらいの育成牛を酪農家から預かり、人工授精させて妊娠後に酪農家の元へ帰す預託管理を行ってます。
また搾乳施設は設置しておらず、乳は酪農家が絞ったほうがよいということで、分娩する2か月ほど前をめどに酪農家へ返しているのも特徴です。
熊本県内の乳用牛約350頭を取り扱っており、酪農家の手間がなくなるということをメリットに管理運営をしてます。
淵田さんはその育成牧場の牧場長をされており、週休2日制で働く傍ら狩猟をしています。
さらに自宅では農業を営んでおり、米を栽培しています。
狩猟を始めたきっかけ
淵田さんが狩猟を始めたのは、今から約6年前の2019年。
米をイノシシに荒らされてしまうという被害に遭い、わな猟免許を取得しました。
止めさしをするのに、イノシシは小さくない限り鉄砲でないと危ないということで、わな猟免許と一緒に銃猟免許も取得しました。
主に使っている罠は「箱罠」で、冬場は「くくり罠」を使用します。
1.2haもある田んぼで、稲刈りが終わった9月以降にくくり罠をかけ始めます。
仕事をしながらの狩猟ではありますが、日中は仕事に行き、空いた時間に罠の見回りをするという生活をしています。
「仕事は土日休みというわけではなく、週休二日制で平日に休みがあったりします。
11月からは猟期が始まるので例年30個ほどの罠をかけますが、見回りだけでも大変です。」
淵田さんの家の近くではシカの被害も多く見受けられるため、シカ用のネットを使用してみましたが、ネットにシカの角がひっかかりぐちゃぐちゃになってしまったことも過去にありました。
「ネットを張って対策したとしても、個体数が減らないとどうしようもないです。」
また職場の牧場は自宅から20分ほどのところにありますが、その周辺ではイノシシの被害が多く、イノシシに牛の飼料を食べられる上、畑を荒らされています。
淵田さんが登録している地区の管轄ではないこともあり、淵田さんが有害駆除をすることができないため、管轄の猟友会に頼んでいます。
猟友会について
淵田さんが住む錦町では、猟友会が二つに分かれています。
淵田さんは「錦猟友会」に所属しており、現在18人ほどのメンバーがいますが、新型コロナウイルスの影響で長らく総会を開くことができず、今年約4年ぶりにやっと仲間同士で話せるようになりました。
「30代後半の男性がメンバー最年少で、女性猟師はいません。
以前は、役場の職員なども所属していましたが、捕獲をしないと会費を払うだけになるので猟友会を辞めていく人もいます。会費も安いわけではないですからね。」
狩猟のやりがい
最初のきっかけである、米の農作物被害がなくなってほしいという思いから狩猟をしている淵田さん。
自宅の周りにも農家がたくさんいることもあり、被害が減ったという声や感謝されることが励みになっています。
昔は近所にも猟師が数名いましたが、狩猟中の事故があったことで狩猟をする人がいなくなり、それから3、4年ほど経って淵田さんが狩猟免許を取りました。今では淵田さんが地域を支える大事な存在となっています。
「どんなにかわいい子供のシカでも、半年も経ったら立派な害獣になってしまうので、できるだけ捕獲しないといけないことが大変です。」
イノシシ、シカだけでなくサルも捕獲したことがあり、銃で撃ったことによって脅しになったのか、それ以降出現する数は大幅に減りました。
「最初に鉄砲で撃ったときに十数匹が木から落ちてきて驚きました。その後、子供を抱いたサルが3匹だけ来たので捕獲することができました。
サルはなかなか捕獲ができないからか、報奨金がイノシシやシカよりも高かったです。」
罠について
狩猟を始めてすぐの頃は、知り合いが自作した罠をもらって使っていましたが、自分の使い勝手の良い罠を使いたいということで、ワイヤーのかしめも全て自分で行い、仕掛けを全て自作するようになりました。
またイノホイで4年ほど前に購入した「くくり罠ストロング」を今でも大切に使っており、壊れたところを直しながら使っています。
4年前に購入し、今も現役のくくり罠ストロング
ワイヤー部分は自作しています。時にはイノシシに切られることもありますが、4㎜サイズのワイヤーを主に使っています。
踏み板については、長年使いまわしているため、ねじがさびてきた際にはその部分だけを購入して変えています。
数年も使っていると動きが悪くなってしまうため、今では罠をかけ始める前に油などをさして作動するかどうか一度確認してから使っています。
台座はなくなってしまうことがよくあるため、足りなくなったら都度購入しています。
箱罠について
家の裏に設置してある立派な「箱罠」。
先輩猟師でもある淵田さんの義理の父親が作ったものだそうで、もともと鉄工所を営んでいたこともあり、近くのホームセンターでスクリューメッシュなどを仕入れたものを溶接して作っています。
支えとしている棒に動物が触れると柵が閉まる仕組みになっており、柵を引っ張る紐を支える部分は「ピアノ線」を使っています。
イノホイ以外にも他の狩猟用品店の罠も使用しており、自作の箱罠に商品の一部を取り入れることもあります。
「箱罠の中に泥を入れる必要があるので、自作した箱罠だと底がさびてきてしまいます。
イノホイの商品は自作のものと比べたときにやはり頑丈さを感じます。」
また箱罠は役場からの貸し出しもありますが、持ち運びできる組み立て式で、一度組み立てたら外したくないほど大変なのだそうです。
その反面、自作の箱罠は全部溶接しているので、50kg~60kgと重さはありますが、そのまま軽トラックに載せられるので組み立てる手間がありません。
箱罠は、道端にかけていてもなかなか捕獲できないため、山の中に設置しています。
少し山に入るだけでも捕れ具合が全く違うようです。
罠場となる山は自宅から近く、雨の後は足跡をみて箱罠を設置したり、獣の通り道を探ってくくり罠をかけたりしています。
「箱罠の中に”精米しすぎている米(米ぬか)”を餌として置くとイノシシが寄ってきます。
毎年捕獲して、イノシシは結構減ってきましたが、メスがまだ多いです。年に20頭~30頭は捕獲しています。」
狩猟界の課題
「大きいイノシシは、捕獲したらさばいておいしく食べる」と淵田さん。
地区によりますが、淵田さんの地区では猟期が始まると有害駆除の報奨金が出ないため、小さいものは知り合いに譲ることもあります。
報奨金がないためか、ウリボウのような小さいイノシシは罠を外して逃がしている人もいるようで、それが後々農作物被害につながってしまうと淵田さんは問題視しています。
「1頭が10頭に増えていく。ウリボウは肉もあまりないので、報奨金が出ないと正直扱いづらいです。」
また、もう一つ淵田さんが頭を抱える課題が、肉の処理です。
近くの加工所としては、自宅から車で45分ほどの場所にありますが、止めさしをして30分以内で持ってくるように言われているため、どうしても無理があるのが現状です。
おすすめのジビエ料理
おすすめのジビエ料理は、猟友会の仲間が作る「シカの燻製」と淵田さん。
肉をさばいた後に、必要な部分だけ切り取り、市販の燻製機で燻製を作っているのだそうです。
「シカの肉はおいしいのですが、さばくのが大変です。
頑張ってさばいたにも関わらず肉があまりついていないので、燻製にするのがおすすめです。」
仕事と狩猟の二刀流で、道具を長年大切に使っていたり、地域の農作物被害を減らすために日々奮闘されたりという淵田さんの人柄が、取材を通して伝わってきました。
修理をしながら大切に使用しているくくり罠 ストロング