狩猟を行う目的は趣味や害獣駆除などさまざまですが、獲った獲物を使って料理して最後まで命をいただくのは、自然界に存在する生き物の1つとしてマナーといえるかもしれません。
狩猟で得た野生鳥獣の肉を使ったジビエ料理は、珍しいだけではなく新鮮で栄養価も高い点が魅力です。
本記事では、狩猟で獲得した野生鳥獣を使ったジビエ料理の魅力やぜひ試してみたいレシピなどを詳しく紹介します。
目次
狩猟の目的

狩猟を行う際には、鳥獣保護管理法で定められている通り、住所地の都道府県知事が発行する免許を事前に取得しなければいけません。つまり、思い立って狩猟を行ったり誰もが狩猟できるわけではないのです。狩猟の目的はさまざまあります。
趣味として楽しむ
狩猟を趣味として楽しむ人は少なくありません。自然豊かな地域に住んでいて、狩猟が身近なものである場合だけではなく、都会に住んでいながらときどき狩猟を楽しむために山に入る人もいます。
狩猟自体が自然を体感できるものであり、また野生動物と出会うことができる場でもあります。さらに、その野生動物たちと知恵を比べながら獲物を追う狩猟は、オンラインのゲームにはない醍醐味を感じられ虜になる人も多いようです。
害獣駆除
害獣を駆除するために狩猟を行うこともあります。鳥獣保護管理法で対象とされている生き物は、捕獲許可などを得ない限りは殺傷や捕獲が禁止されています。
しかし、農作物などに被害を与える有害な鳥獣は、野放しにしていると被害が拡大します。自分たちの生活や仕事に影響が出ないよう狩猟で害獣を駆除したり、自治体の要請を受けて害獣の個体数を減らすために狩猟を行ったりするケースも少なくありません。
特に近年は、地球温暖化の影響で気候や気温に大きな変化が出ているため、従来であればいるはずのない地域に害獣が出没して人々の生活に被害を及ぼすこともあります。
環境の保全
野生鳥獣の個体数を狩猟によって調整することは、環境保全にもつながります。特定の鳥獣が増え過ぎてしまうと環境に影響を与えるため、個体数を管理して鳥獣被害を防ぐのです。
また、狩猟対象の鳥類を増殖したり放鳥したりして、鳥類の生息数を増加させることもあります。適切な数の野生鳥獣を維持できれば、森林を保全し持続可能な生態系を維持できます。
自然資源として肉や皮の利用
狩猟によって得た獲物の肉や皮を利用し、生計を立てたり収入を得たりする人もいます。捕獲した肉や内臓はジビエ料理に活かせます。また、鳥獣の皮を使って革製品を作ることも可能です。
ジビエ料理や革製品のために狩猟を行うのではなく、個体数をコントロールしながら捕獲した肉や皮など、自然の恵みをあますところなく使うのはエコな生態系といえるでしょう。
野生鳥獣被害の実態

近年の日本では、野生鳥獣が増えすぎています。そのため、自然環境や農林業を営む人にとって大きな問題となっています。
たとえば、シカやイノシシなどが田畑を荒らし、農作物を食べたりスギ、ヒノキやブナなどの樹皮や高山植物を食べてしまうなど、その被害は深刻です。
野生鳥獣による被害は、営農意欲の低下や耕作放棄地の増加などを招き、さらに野生鳥獣のすみかを拡大する結果となっています。一時は、農作物への被害額は200億円を上回りましたが、全国で捕獲体制を強化した結果、令和3年度には155億円まで減少しました。(1)今後も自然環境や農林業を守るために継続的に野生鳥獣をしていく必要があるでしょう。
狩猟の楽しみである料理

狩猟によって捕獲した野生鳥獣を使った料理を、「ジビエ料理」といいます。ジビエはフランス語で、狩猟で得た天然の野生鳥獣の食肉を表します。
実はジビエ料理は、古くからヨーロッパでは貴族の伝統料理として発展してきた食文化で、特にフランスなどでは、ジビエを使った料理は自分の領地で狩猟ができるような上流階級の貴族しか食べられない貴重な料理でした。
動物の尊い生命をいただくため、肉だけではなく内臓や血液、骨などすべての部位を使い、感謝の気持ちを持ってありがたくいただきます。ジビエは、フランス料理界では高級食材として重宝され、高貴で特別な料理として多くの人に親しまれた料理です。
シカ肉
シカ肉は、他の食肉と比べると脂肪が少なくヘルシーな肉として人気です。高たんぱくなのに低カロリーで、鉄分も豊富です。
シカ肉に含まれるヘム鉄と呼ばれる鉄分は、人間の身体に吸収されやすいため、貧血や冷え性の予防にも役立ちます。貧血気味の女性や育ち盛りの子供、メタボが気になる中年男性など、性別年代を問わずおすすめの肉です。
イノシシ肉
イノシシ肉は、比較的日本でも馴染みのある肉でしょう。その最大の特徴は、甘くとろける脂身です。しつこさはまったくなく、赤身の部分もしっかりとしたお肉の旨味を味わえます。
イノシシ肉には特有の匂いがあり、それが苦手という方もいますが、適切な血抜き処理と調理を行えば臭みはなく美味しくいただけます。
クマ肉
クマ肉は、ツキノワグマとヒグマの2種類があります。冬ごもりする前のクマは、果実や木の実を多く食べているため、特に味がよくなるといわれています。
旨味が強くて脂身は甘く、野生的な風味も加わったジビエでも人気の肉です。
カモ肉
和食でも使われるカモ肉は、フレンチやイタリアンなどさまざまな国の料理で使われるジビエです。日本で流通しているカモ肉は、ジビエと家禽に分かれており、アヒル、真鴨、合鴨の3種類があります。
野生の真鴨は狩猟が解禁される冬が旬です。この時期のカモ肉は脂がのっていて旨味が強いのが特徴です。また、肉が多くとれてやわらかい肉質のアヒルは真鴨を家畜化したものであり、合鴨は真鴨とアヒルとの交雑・交配種で、肉の量が多く味も美味しいです。
ウサギ肉
野ウサギはリエーブルと呼ばれ、希少な野生動物です。ウサギ肉は鶏肉の味わいに似ており、やや粘り気があるのが特徴です。味わいは、食用ウサギの方がやわらかく淡白、野ウサギは全体的にパサパサした食感で野性味のある味になっています。
キジ肉
キジ肉は、古くから日本でも食べられてきた食材です。鶏のムネ肉に似た味わいで脂質が少なくあっさりと淡白、クセがないのでさまざまな調理に適しています。野生のキジは、めったに捕獲できないため高級食材となっています。
カラス肉
カラスは害鳥のイメージがありますが、実はフランス料理では高級食材です。肉は筋肉質で濃い赤身、鶏肉よりも弾力があって臭みやクセがあまりないのが特徴です。
ジビエ料理の魅力

ジビエ料理の魅力は、なんといっても鮮度がいい点です。狩猟で捕獲してすぐに処理や調理を行うため、一般的なお肉とは比べ物にならない美味しさを味わえるでしょう。また、栄養豊富で環境に良い点もメリットです。
鮮度がいい
ジビエの肉は、食用に飼育された牛や豚などとは異なり、山野を自由に駆け巡る天然の動物の肉です。そのため、脂肪が少なく引き締まっていて栄養価も高いのが特徴です。
そんな野生の鳥獣を狩猟で仕留めたあとは、すぐに食べられるお肉にできるよう加工されます。血抜き・内臓のとり出し・皮剥ぎ・部位ごとの切り分けなどの工程を経て調理されます。
特にジビエの内臓はもっとも鮮度が落ちやすい部位であるため、狩猟したその日のうちに食べるか、しっかりと下処理を行って真空パックにしてから冷凍したものしか食べられません。鮮度の良さはジビエ料理の最大の特徴といえるでしょう。
ヘルシー
ジビエは高たんぱく質で低脂肪、低カロリーな食材です。鉄分が豊富なため、貧血や冷え性の予防におすすめです。また、ビタミンB群、亜鉛などのミネラルも豊富に含まれています。
特にシカ肉には、アミノ酸の一種のアセチルカルニチンが多く含まれており、イノシシ肉には牛肉の約5倍の鉄分、鶏肉の約2倍のビタミンB1、豚肉の約1.5倍のたんぱく質が含まれています。
そのため、ジビエはダイエットしたいときや、アスリートの栄養補給、高齢者の介護食などにも適しており注目されています。
栄養豊富
ジビエの肉は、栄養豊富です。一般的に食される牛肉や豚肉と比較してみましょう。
ジビエは新鮮でヘルシー、さらに栄養価も豊富な素晴らしい食材です。(2)
環境に良い
ジビエ料理は、環境問題を改善する一役を担う可能性があります。 環境問題の1つとして深刻化している地球温暖化ですが、その原因は温室効果ガスの排出が関係している、といわれています。
温室効果ガスは、電気をつくるときや自動車の排気ガスなどによって排出されることは有名ですが、実は畜産分野による温室効果ガスも問題視されているのです。
牛のゲップに含まれるメタンガス や、豚や鳥の飼育や肉を輸送する際に発生する二酸化炭素などが、畜産分野による温室効果ガスの排出を促進させます。ジビエ料理を食することで、畜産分野で発生する温室効果ガスを少しでも減らすことが可能です。
ジビエ料理の注意点

ジビエは食肉用に加工された肉とは異なります。そのため、調理するときには以下の点に注意しましょう。
よく加熱する
野生鳥獣のジビエには、E型肝炎ウイルスや腸管出血性大腸菌、寄生虫などのウイルスや食中毒を引き起こす原因となる菌を持っている可能性があります。そのため、ジビエ料理はよく加熱してから食べましょう。
色や臭いがおかしいものは、すぐに廃棄してください。生食で食べるのは厳禁です。
調理器具を分ける
ジビエ料理を作るときには、調理器具を他の食材に使うものと分けましょう。必ず、83℃以上のお湯で消毒するか、次亜塩素酸ナトリウムなどを使って清潔を保ってください。
解凍は冷蔵庫で行う
ジビエは一度に食べきれない場合は、解体して部位ごとに冷凍して保存することが多くあります。保存するときもほかの食肉と分けましょう。
解凍する際は、冷蔵庫でゆっくりと行ってください。冷凍のジビエ肉の外側と中心部の温度差が小さくなるよう解凍すれば旨味成分の流出を防げます。
意外な美味しさも!おすすめのジビエ料理

おすすめのジビエ料理をいくつか紹介します。食べたことがない方も食べず嫌いの方も、ぜひ一度、新鮮でヘルシーなジビエ料理を味わってみてください。その美味しさの虜になるかもしれません。
イノシシ肉のカイエット
カイエットとは、フランスの南部の郷土料理です。挽肉や野菜を網脂で包んで焼いたものでジューシーな味わいが特徴です。
【材料】4人分
イノシシ肉のミンチ:400グラム
卵:1個
パン粉:40グラム
牛乳:20cc
オニオンソテー:100グラム
にんにくおろし:5グラム
ブランデー:少々
春巻の皮:4枚
塩コショウ:適量
バターソース
無塩バター:100グラム
ケチャップ:20グラム
パセリみじん切り:少々
カレー粉:10グラム
塩コショウ:適量
ウスターソース:10cc
下ごしらえとして、パン粉を牛乳でふやかしておきましょう。玉ねぎをみじん切りにし、フライパンでソテーして冷ましておきます。春巻の皮は水でふやかし、バターを常温に戻しておいてください。
【作り方】
- ボールに春巻の皮以外のカイエットの中身の材料を全て入れ混ぜ合わせます。
- カイエットを120グラムはかり、成形し戻した春巻の皮で包みましょう。
- ボールにバターを入れ、バターソースの材料を入れて混ぜ合わせます。
- ラップに3を入れ、ロール状に巻いて冷蔵庫で冷やして固めます。
- フライパンを温めて油を引いて、カイエット生地を両面しっかり焼き色がつくまで焼いていきましょう。
- 5に水を適量入れ、蒸し焼きにして中までしっかり火を入れます。
- 4の冷やし固めたバターを5mm位にスライスし、6のカイエットの上に乗せます。
- 魚焼きグリルなどでバターを焼き溶かしましょう。
- 器にカイエット、季節の野菜などを盛り付けて完成です。
参照:日本ジビエ振興協会
甘辛BOTAN丼
塩こうじでイノシシ肉に下味をつけたお肉を使った丼です。ボリュームたっぷりですが、食感も柔らかく食べやすくなっています。冷蔵庫で約1か月保存ができます。
【材料】4人分
イノシシ肉バラ肉(1mm薄切り):400g
淡路産玉ねぎ:大1個
しょうが:少々
ごま油:少々
昆布水(だし昆布10センチ×2枚を水に入れてつくる昆布ダシ):50cc
特製丼だれ 100~120c
濃い口しょうゆ:200cc 左の材料を使って、事前に甘だれを作っておく。
てんさい糖:160g
純米酒:100㏄
だし昆布:10センチ1枚
干しシイタケ:1枚
押し麦入りごはん(白米2.5合と押し麦0.5合を土鍋で炊いたもの):3合
紅ショウガ:少々
青じそ:少々
白ごま:少々
■下ごしらえ
イノシシ肉は肉の臭みを抑えて柔らかさとうまみを引き出すために、塩こうじをまぶしてもみこんで10~30分おいておきます。玉ねぎは、縦半分に切って内側から外側に向けて、繊維に沿って薄切りにしましょう。
特製丼だれは、小鍋に純米酒をかけて、アルコールを飛ばします。残りの材料を入れ、てんさい糖が溶けるまで、煮立たせておきます。
【作り方】
- フライパンにごま油を引いて中火にかけ、しょうがと玉ねぎを入れ、サッと炒めたら、塩一つまみと水少々を加え、ふたをして火を弱め、蒸し焼きにして、玉ねぎの甘さを引き出します。
- 玉ねぎがしんなりして、汗をかいてきたら、塩こうじをもみ込んでおいた、イノシシ肉を加えて、サッと炒めあわせましょう。
- 昆布水と丼だれを加えて、イノシシ肉にしっかりと火を通します。
- どんぶりに押し麦入りごはんを盛り、丼の具をのせて、紅ショウガと青じそ・白ごまをトッピングすれば完成です。
参照:日本ジビエ振興協会
鹿カツベーコン巻き
料理が苦手な方や初心者の方も簡単に作れるレシピです。材料はとてもシンプルで家にあるものばかりです。ぜひジビエ初料理として試してみてください。ソースをマヨネーズにしたり、ベーコンを大葉に変えて梅肉ペーストにしても美味しいです。
【材料】4人分
シカ肉:200g
ベーコン:1パック
小麦粉(薄力粉):適量
溶き卵:適量
パン粉(衣用):適量
塩コショウ:適量
よく合うイタリアンソース
ケチャップ:大さじ6
ウスターソース:大さじ1と1/2
カレー粉:小さじ1/2
【作り方】
- シカ肉を大体1.5cm×4cmくらいのサイズにカットし、塩こしょうをふって、軽く馴染ませます。
- ベーコンはよくあるサイズを真ん中でカットしましょう。
- シカ肉をベーコンで巻いて、つまようじを刺します。
- 小麦粉→溶き卵→パン粉の順に付けていつものてんぷら油180度で4分揚げます。
- クッキングペーパーで軽く油をきったら完成です。
参照:日本ジビエ振興協会
鹿油淋
シカ肉を使った油淋です。加熱すると固くなったりパサついたりするシカ肉は、ビールにつけこむと柔らかくなります。
【材料】4人分
鹿スネ肉:120グラム
キャベツ:30グラム
卵:適量
小麦粉:適量
ビール:適量
ネギ:1/2本
しょうが:1かけ
しょうゆ:大3
砂糖:大2
酢:大3
ごま油:大1
塩:適量
【作り方】
- シカ肉の筋を包丁で筋切りをし、ビールに10分くらいつけこんでおきます。
- 塩を振って卵、小麦粉をつけておきましょう。
- 油の温度を170度くらいにして揚げます。
- 4分くらい揚げてからひっくり返して1分30秒くらい揚げて、全体がパリッとしてきたら上げておきます。
- ネギ、しょうがをみじん切りにして調味料をすべてよく混ぜ合わせます。
- キャベツを千切りにして、その上に肉をのせてソースをかければ完成です。
参照:日本ジビエ振興協会
狩猟の獲物を料理するのは醍醐味|命をありがたくいただこう

狩猟の目的はさまざまですが、狩猟によって獲得した獲物を料理していただくのは、大きな楽しみの1つです。野生鳥獣による被害を減らすためにも、捕獲した生き物には感謝の気持ちを持ってあますところなくいただきましょう。
ジビエ料理はもともと、貴重で高級な食材として使われていたものです。新鮮で栄養豊富、ヘルシーなお肉をいろいろな調理法で味わってみてください。