狩猟は、自然環境の保全や害獣対策の観点から重要な役割を果たしています。しかし、捕獲した動物の解体後に発生する残滓(ざんし)を適切に処理しなければ、環境汚染や野生動物の誘引、さらには法的な問題を引き起こす可能性があります。 狩猟者には、法律や規制を理解し、適切な後始末を行う責任があります。本記事では、日本における狩猟残滓の処理に関する法律と、安全かつ効果的な処理方法について詳しく解説します。 目次 1狩猟後に発生する残滓とは何か? 2狩猟後の後始末・残滓処理の方法 1専用焼却炉による焼却処理 2狩猟後の残滓を埋設する 3狩猟後の残滓を資源化する 4ペットフードへの活用 3狩猟後の残滓を後始末せず放置するリスク 1ヒグマの冬眠異常や人身事故の増加 2鉛中毒による希少猛禽類への影響 3悪臭のリスク 4衛生面のリスク 4日本における狩猟残滓の処理に関する法律と規制 1鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律 2廃棄物処理法 5狩猟後はルールに基づき適切に残滓処理・後始末をしよう 狩猟後に発生する残滓とは何か? 大物猟では、獲物を解体した際に出る皮や骨などの不要物を「残滓(ざんし)」と呼びます。残滓の適切な処理は、猟師にとって重要な作業の一つです。 一般的に、獲物の可食部の割合を示す歩留まりは、イノシシでおよそ50~70%、シカではおよそ40%とされています。そのため、食用とならない部分が残滓となり、想像以上に重くなることも少なくありません。特にイノシシの場合、歩留まりの幅が大きいのは、皮を食べるかどうかによる違いが影響しています。 狩猟後の後始末・残滓処理の方法 狩猟で捕獲した動物の残滓を適切に処理する方法はいくつかあります。専用焼却炉を使用する方法や、環境に配慮した埋設処理、さらに資源として再利用する方法など、それぞれの状況に応じた適切な処理が求められます。 特に、鉛弾を使用した場合は、他の動物による二次被害を防ぐために適切な処理が重要です。ここでは、狩猟後の後始末の方法について、具体的な処理手順と注意点を解説します。 専用焼却炉による焼却処理 狩猟で捕獲した動物や食肉加工の残渣は、専用焼却炉で処理できます。専用焼却炉の一般的な処理能力は、施設により異なりますが一定量ごとに処理するバッチ処理方式が採用されています。 狩猟による捕獲数は日によって変動し、処理能力を超える場合もあります。その際は、冷蔵・冷凍保管庫の併設が必要です。既存の焼却施設で処理できない場合や、生物処理施設の設置が難しい地域では有効です。 ただし、導入費や維持管理費が高額なため、設置には慎重な検討が必要です。また、捕獲者が個体を切断せずにそのまま焼却できる点も利点です。 狩猟後の残滓を埋設する 捕獲した動物を持ち帰れず、自然への影響が少ない場合に限りその場で埋設できます。ただし、埋設方法によっては環境や野生動物に悪影響を与えるため注意が必要です。 特に鉛弾を使用した場合、埋設が不十分だと他の動物が掘り返して食べ、鉛中毒を引き起こす恐れがあります。そのため、埋設する際は十分な深さを確保し、野生動物に掘り返されないようにする必要があります。 また、一箇所に複数の動物を埋める場合は、環境への影響を考慮し、できるだけ適正な処理施設で処理することが望ましいとされています。さらに、埋設場所まで運ぶ際は、体液が漏れないようにし、クマなどの野生動物を引き寄せない工夫が必要です。 狩猟後の残滓を資源化する 近年、狩猟で得た動物の残滓を資源として活用する方法が注目されています。特に、イノシシの肉や骨を加工し、飼料や肥料として利用する方法は、飼料安全法や肥料取締法で認められています。 具体的には、化製場(レンダリング工場)でイノシシを処理し、肉骨粉として家畜や養殖魚の飼料や農業用の肥料にするケースがあります。また、イノシシを堆肥に混ぜて発酵させ、肥料として利用する方法もあります。 ただし、平成30年3月時点で、発酵処理した堆肥が正式に肥料として認められた事例はありません。(1)このように、狩猟後の残滓は資源として活用できます。ただし、安全管理や法的基準を守ることが前提となるため、適切な処理方法を選ぶことが大切です。 ペットフードへの活用 シカやイノシシの狩猟後の残滓は、ペットフードに活用できます。シカはペットフードのみに利用でき、イノシシはペットフード、飼料、肥料として活用できます。 ペットフードには、ジャーキー、骨のおしゃぶり、ふりかけなどがあり、製造からパッケージ化までを同一施設で行う必要があります。肉骨粉の利用には制限があり、シカ由来のものは使用できません。 一方、イノシシ由来のものは、適切な確認手続きを経れば利用できます。製造時は、銃弾の除去、異常個体の排除、他の野生動物との分離処理が必要です。また、ペットフードの製造にはペットフード安全法が適用され、加熱処理や届出手続きが義務付けられています。(2)...