イノホイの鳥獣対策マガジンでは、こうした被害の対策に取り組む企業や団体をご紹介しています。 今回は宮崎県の「鳥獣被害対策支援センター」がおこなっているさまざまな活動をご紹介させていただきます。
これから鳥獣被害対策に取り組まれる方や、地域ぐるみでの対策を検討されている方には特に役立つ情報となっていますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
鳥獣被害対策支援センター設置の経緯
平成20年頃、宮崎県では鳥獣被害が深刻化。それまで県庁では農林作物や林業の被害などのさまざまな課題に対して複数の課に分かれて対応していましたが、平成22年度に関係部局が連携し、総合的かつ効果的に被害対策を推進するため、「被害対策プロジェクト」に取り組むことになりました。こうした流れの中で技術的なフォローをする部署の必要性が高まり、平成24年に鳥獣被害対策支援センターが新設されました。当初は県林業技術センター内に設置されましたが、組織改革により平成30年に宮崎県総合農業試験場内に移管しています。
鳥獣被害対策に“面”でとりくむための技術指導
支援センターは鳥獣が来ないようにするソフト面・技術を集落に伝えていく役割が大きいといいます。鳥獣対策は集落、“面”でのとりくみが必要です。被害にあっている一軒一軒を回って対策をおこなっても、隣の圃場が鳥獣を呼んでしまうようでは効果が低くなってしまいます。そこで支援センターがおこなっているのが、“集落への技術指導”です。
例えば、集落にある圃場をワイヤーメッシュでまとめて囲う場合、住民の方が国の事業に申請を出して自力で設置されることが多いため、支援センターでは柵を設置するルートや効果的な張り方などを助言しています。
宮崎県には西臼杵支庁と農林振興局という各地域の事務所があり、住民の方から相談を受けた市町村と事務所の職員で「こういう対策をしていこう」「勉強会をしよう」となったときに支援センターに要請がきます。そうした時に講師として話をしに行ったり、支援センター内で電気柵などの研修会をおこなったりしているのだそうです。
また、住民の方の中には時折「柵を張れば防げるだろう」という誤った認識をお持ちの方もいらっしゃるため、研修では「柵を張ったら終わりではないんですよ。張るルートも大事ですし、張った後の管理が特に大事なんですよ」と伝えているといいます。
その他にも支援センターでは捕獲セミナーをおこなっています。捕獲の技術や狩猟の話というよりも、“山の10頭より里の1頭”、「被害を加える個体を捕獲するにはどうするのが一番良いのか」というところに重きを置いているのだそうです。
防護柵設置の前にやるべき“動物を寄せつけない対策”を啓蒙
宮崎県の令和3年度の鳥獣被害額は約3億8,300万円。被害額はやや減少傾向にありますが、数字として表れない部分では、被害によって営農意欲が減退してしまうという問題が深刻化しています。支援センターの職員は「来年は農業を辞めようと思っている」という声を聞くこともあり、そうした声を聞くと「何とかしなければ」とより一層対策に力が入ると話されていました。 鳥獣被害を防ぐには、「家庭内の残飯や取り残した農作物等を放置しない・動物が身を隠せる場所をなくす・集落全体でとりくむ」といった、そもそも“動物を寄せつけない対策”が非常に重要です。
支援センターではこうした基本的な対策を分かりやすく伝えるために、動画やマニュアルを作成してWeb上に公開したり、「鳥獣センター通信」という機関紙を年に4回発行したりと、さまざまな形で情報発信しています。
鳥獣保護区等位置図をGoogle Mapで公開
支援センターではこれまで鳥獣保護区等位置図を紙媒体やPDF形式で配布していましたが、「紙では見づらい」「現在地と保護区の確認がしづらい」という声が相次いだことから、電子版(Google Map)を公開しました。10月中旬の公開からすでに18,000回表示されています(令和5年6月20日時点)。特にご高齢の方から良い評価をもらっているのだそうです。 本州で似たとりくみをおこなっているところはシステム会社などに委託して管理しているそうですが、支援センターでは国土交通省の鳥獣保護区データをもとに独自で作成・管理しています。作ったばかりでまだかゆいところに手が届かない部分もあるため、今後もブラッシュアップしていく予定とのことです。
編集後記
今回は宮崎県の鳥獣被害対策支援センターがおこなっているさまざまな活動をご紹介させていただきました。一人ひとりが対策を心がける“点”も大切ですが、それを集落全体で取り組むことで“面”となり、より効果的なものになるのだなと改めて感じました。取材にご協力いただきありがとうございました。