野生獣が田畑に侵入しないようにしたり、家畜が敷地から出ていかないようにするための電気柵。機能や規模にもよりますが、数万円という比較的安価なものが一般的であり、手軽に導入できることから近年広く普及するようになりました。
ホームセンターの防獣コーナーでも販売されており、広く認知されるようになってきていますので、馴染みがない人にとっても「電気柵?なんとなく怖い・・・」というイメージは薄れてきているのではないでしょうか?
とはいえ、触れた獣に電気ショックを与えて退散させるための機材になりますので、使い方や設置方法を誤ると感電のリスクもあります。また、十分な効果が出ないこともありますので、仕様をしっかりと理解しておくことが重要です。
今回は安全かつ効果的な電気柵の設置のために、電気柵の電圧について解説します。
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イノホイおすすめの電気柵はこちら。そもそも電気柵の電圧とは何を指す?
ひとくちに電気柵の電圧といっても、「電源電圧」と「出力電圧」、「柵線にかかる電圧」などがあります。これから電気柵の導入を検討する場合は、これらの電圧が何を指しているか理解しておき、検討対象の商品がどのような規格になっているか把握しておくと良いでしょう。
また、電気柵の仕様を理解するにあたり、DCとACの違いを知っておくと、規格をより理解しやすくなります。
電気の流れ方には直流(Direct Current:DC)と交流(Alternating Current:AC)の2種類があり、直流と交流の違いは、電気の流れる方向が周期的に変わるものが交流(AC)、変わらないものが直流(DC)です。
家庭用のコンセントから流れる電気は交流で、乾電池やバッテリーから流れる電気は直流です。電気柵本体も含め、電気製品は一般的に直流で動きます。
電源電圧
いわゆる、電気柵の本体に入力する電源電圧になります。電源は、A:乾電池、B:バッテリー、C:ソーラー発電があり、いずれも通常はDC12Vという電圧値になっています。
また家庭用のAC100V電源をDC12Vに変換するアダプター(ACアダプター)を接続して稼働するタイプもあります。
出力電圧
電気柵の本体から出力される電圧を指します。電気柵は以下の図の通り、本体(電源装置:図中の赤い器具)と電線(柵線)を接続することにより、全体に電圧がかかる仕組みになっています。
出力電圧とは、本体から出力される電圧値を指します。最大出力電圧(無負荷状態で出力される電圧値)は、10000Vのタイプが一般的です。
閑話:安全のためのパルス出力
電気柵のメカニズム:電気が通っている電線に触れて体を伝って地面に電気が流れたときに、感電(電気ショック)が発生します。一般的に、感電時のリスクの程度は、通電時間×電流の強さが大きいほど重篤になります。2015年7月 、静岡県西伊豆町において、川で遊んでいた小児が土手の紫陽花畑の周囲に設置されていた害獣よけの電気柵に触れて感電するという事故が発生しました。感電した小児を助けようとした他の 6人も次々と感電し、7人が病院に搬送。最終的に40代の男性2名が死亡するという大きな被害が発生しました。
のちに、この事故に使用された電気柵は自作のものであり、100V交流電源を変圧回路によって昇圧したものを直接柵線に通電していたことが判明しました。
市販の電気柵は、上記のような事故を防ぐために、約1秒間隔で瞬間的に電気を流すパルス出力形式となっています。これにより、仮に人間が誤って感電した場合も、すぐに離れられるようになっています。また、電気事業法およびそれに関する省令によって安全のための規制が定められており、市販されている電気柵は必ず安全装置を備えることになっています。
そのため、市販の電気柵においては感電事故は起こりえない構造になっています。また、誤って触れてしてしまったとしても、静電気で強くバチっとなった程度の刺激です(そもそも電気柵は電気ショックで獣を傷つけることが目的ではなく、電気ショックへの恐怖心によって近づけさせないようにするのが目的の機器です)。
柵線にかかる電圧
柵線にかかる電圧は、専用のテスター(検電器)を用いて計測します。設置状態に異常がないか確認するためにも、必須の作業です。 柵線に何も接触しておらず、アースがしっかり取れていれば、電気柵として機能するに十分な電圧がかかります。
しかしながら、漏電が起こっていると電圧は下がります。よくあるのは、ガイシを使わず支柱に柵線を直接巻き付けていたり、適切にガイシを設置しておらず支柱に柵線が触れてしまっているケースです。 また、地面(アース)と柵線が触れてしまうと、極端に電圧が下がります。
もちろん、地面から生えている草木などが接触していても、大幅に電圧が下がります。
電気柵の機能が有効になる柵線電圧は、約3500V以上です。これを下回ると、獣は電気ショックを感じませんので、電気柵の意味が無くなってしまいます。
テスターでチェックした際に有効電圧を下回る場合は、設置状態に何らかの異常があると考えられます。 こちらの記事を参考に、電気柵が適切に設置されているか確認したうえで適宜修正し、再度電圧を計測してみましょう。
電圧を維持するために
・さまざまな種類の電気柵本体が販売されていますが、それぞれ能力が異なります。同じような見た目の本体でも、張ることのできる柵線長の上限が異なります。本体の能力以上に柵線を張ってしまうと、十分な電圧をかけることができません。購入する前に敷地周囲の長さを確認しておき、本体の能力を超える長さとなる場合は、本体を複数購入するか、長距離設置にも耐えられる本体を購入するようにしましょう。
・上述のとおり、柵線に草木等が触れると大幅に電圧が下がります。こまめに草刈りをするか、電気柵用の防草シート(アース機能付き)を設置するのも一つの手です。
・測定の際、テスターのアースはしっかりと地面に埋まるよう設置しましょう。差込が甘いと、しっかりと電圧が出ません。電気柵側のアースもしっかりと地面に差し込む必要があります。アースが錆びたり導線が切れていたら、要交換です。
・ガイシの取付は適切に。柵線が導電素材に触れてしまうと、漏電が生じて電圧が下がります。設置後も、適切な状態がキープできているか、こまめに確認すると良いでしょう。