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イノシシの生息密度が高くなると、防護柵で田畑を囲んだだけでは、柵を壊されて侵入されてしまうという結果に陥りやすいです。
守りの施策だけでは、イノシシは人間を警戒しなくなってどんどん大胆になるからです。 これを解決するには、捕獲によって狩猟圧を高めることです。 捕獲のためによく使われるのは、箱罠やくくり罠。
それらの方法のうち、イノシシ向け箱罠の特徴・仕掛け方やコツ等を紹介します。
箱罠の長所
箱罠の長所は、やはり安全であることが挙げられます。捕獲した獣の止め刺しを箱の外から行うことができるので、獣による怪我などのリスクが少ないです。
また猟犬などターゲット以外の獣を捕獲してしまった場合も、怪我をさせてしまう可能性は低くなります。 イノシシが暴れるパワーはすさまじいため、くくり罠の場合、捕獲したイノシシが足をちぎったりして逃げてしまうケースも珍しくありません。
捕獲後の対処に難儀するケースも多くあります。 一方で、箱罠は扉を持ち上げられたりしない限り、捕獲後に逃げられることはないので、その後の対処に余裕をもって取り掛かることができます。
一度に捕獲できる数が多いことも箱罠の長所の一つです。くくり罠の場合、一つの罠につき一頭のみの捕獲となりますが、箱罠であれば一度に数頭捕獲することも可能です。
箱罠の組み立て方
1.パネルを組み立てる
1-1底面パネルを置き、扉パネルと側面パネル(トリガーの有無問わず)を配置し、仮止めをします。扉パネルは広い網目を上にしてください。
この時点で本締めをすると形が整わず、組み立てが困難になります。
仮止めの状態で網目の間隔を合わせます。
・扉パネルが滑りケガをする恐れがありますので、注意して組み立ててください。
・組立中にパネルが倒れないよう、ワイヤークリップで固定するまでは、人の手で支えながら組立を行なってください。
1-2同様に反対側の側面、背面パネルを仮止めします。最後に天面パネルを固定します。天面にあるL字アングルを扉と側面パネルの間に入るよう調整します。
各パネルを調整し、形が整ったらワイヤークリップで本締めします。余ったワイヤークリップは補強用として、強度が不足している箇所に使用します。
2.扉を開放する
2-1扉を開放して、扉パネルの下から2本目の鉄筋に安全ストッパーをセットします。
扉を開放する際は、必ず2人以上で作業してください。
2-2扉に付属している吊り下げようワイヤーをガイドに通し、トリガーにひっかけます。
釣り糸が届かない場合、以下の項目を確認してください。
扉面のパネルを上下に動かし、釣り糸が届く位置へ調節する。扉パネルの向き(上下・裏表)を確認する。
2-3箱罠内部に蹴り糸を張り、トリガーのワッシャーに取り付けます。 最後に扉の安全ストッパーを外して完了です。
獣が蹴り糸に触れ、ワッシャーが下がると扉が落ちる仕組みです。
こんな方法もあります
山に落ちている竹棒や丸太、枯れ木を餌の上に乗せ、蹴り糸を繋ぎます。餌を食べるときに、木が邪魔になり、動かすことで作動させます。警戒心を薄め、ごく自然に箱罠が作動します。
ホームセンターで購入した生木や生竹ではなく、自然に落ちている木や竹を使用してください。
休止・保管について
安全を確保し、最良の方法で箱罠を保管してください。運搬の際は、転倒、落下に十分注意してください。
分解して保管
・分解する場合、組立時と同様に危険が伴いますので十分ご注意ください。
・保管中、各パネルが倒れたり、荷崩れしないよう固定してください。
組み立てたまま保管
・扉が容易に開閉できないよう保管してください。
・扉吊り下げ用ワイヤーロープは外して保管してください。
箱罠を仕掛けるポイント
箱罠を仕掛けるには、まず設置場所を決める必要があります。餌付けによる慣らしが必要なので、場所をころころ変えるというわけにもいきません。そのため、場所選びは非常に重要です。悩む場合は、以下の3つを満たす場所に設置するとよいでしょう。
1.平らな場所
箱罠はその形状から、平坦な場所に置くほうが当然安定します。不安定な場合、餌を食べに箱罠に入ろうとした獣が警戒してしまします。 特にイノシシの場合、足場が不安定な場合はすぐ逃げてしまうので、極力グラグラしないような場所を選んで設置しましょう。
また、扉が傾いてしまっていると、摩擦抵抗によって扉の動きが重くなったり、頑丈でない箱罠の場合はフレームが歪んで扉が落ちなくなるケースもあります。
2.イノシシの通った痕跡が多い場所
箱罠は一目で不自然なものと分かりますので、はじめのうちはイノシシに必ず警戒されます。時間をかけて警戒心を解いていくことになりますが、そもそもイノシシが近寄らない場所に箱罠を設置しても、警戒されるばかりで寄り付きもしないという結果になってしまいます。
イノシシが残した痕跡(足跡、食痕、糞、ヌタうちの痕跡など)をもとに、彼らがよく通る獣道を探しましょう。また、罠を設置する前に、アタリを付けた場所に餌をまいてみて、獣が来るか反応を探るのも一つの手です。
場所や時期によってイノシシが食べるものは変化しますが、それを読んで痕跡を探すのもよいでしょう。(例えば、「この辺りでは秋ごろから栗の実をイノシシが食べているようだ。栗の樹が多くあるあそこの林にきっと食痕があるはずだ。」など)
他にも、イノシシの生活圏であるヌタ場や遊び場付近は頻繁にイノシシが出没するため、ねらい目です。
3.運搬や見回りがしやすい場所
イノシシ用の箱罠はそれなりに重量がありますので、自動車でいけない場所を持ち運ぶのはかなり大変です。
運搬が大変な場所を選択すると、設置の際だけでなくその後も色々と労力がかかってしまいます。 また、設置後は基本的に毎日罠を見回る必要がありますので、アクセスしやすい場所を選ぶことは大切です。
なお、見回りの際は、獲物が獲れていなかったとしても、設置した箱罠周囲の草木の倒れ具合や足跡のチェックを欠かさないようにすると、獣の行動の変化に気づきやすくなります。
Q.同じ場所で続けて設置することは避けるべきか?
箱罠による捕獲は、最初のうちは獲れていても、生き残ったイノシシが学習するので、だんだんと獲れなくなるという声も聞きます。 一方で、何年も同じ場所、同じ箱罠で繰り返し獲れているという人もいます。
中には、一つの罠で朝と夕方2回かかるケースも聞きます。 これは地域や年によって差があると思われますが、基本的には獣が出没するうちは同じ場所、同じ箱罠でも問題なく獲れると思われます。
設置してから...
底面を隠す
底面を速土で隠し、獣の警戒心を薄めます。自然界に異質な鉄の塊はいかに違和感をあたえないかが重要です。
獣道からの誘導
扉の向きは獣道から誘引しやすい向きに設置します。回り込ませると獣の誘引が難しくなります。
トレイルカメラの活用
箱罠を設置したら、ターゲットとなる動物が来ているか、餌を食べているかを確認するため、トレイルカメラで罠周辺を観察します。
足跡がつきにくい固い地面の場合は、特にトレイルカメラの活用がおすすめです。
くくりわなの活用
箱罠設置後、撒き餌をするとまずは小動物が誘引されます。箱罠周辺にくくり罠を設置し、小動物を捕獲した後にイノシシやシカなどターゲットとする獣を箱罠で捕獲します。また、箱罠の中には入らず、周回し様子を伺う警戒心の高いイノシシの捕獲にくくり罠を活用します。
慣らし期間を設ける
箱罠の内部にイノシシを引き寄せるには、餌付けを続けながら時間をかけて警戒心を解くための「慣らし期間」を設ける必要があります。慣らし期間では餌を撒く際に罠にはできるだけ近づかないこと、見回りは手際よく、なるべく人間の痕跡を残さないようにすることがポイントです。
慣らし期間は箱罠の扉を上げたまま落ちないようにしておき、ターゲットを油断させます。箱罠の入り口すぐ近くまで食べるようになったら、トリガーを作動可能な状態にして、捕獲できる状態にします。
餌付けについて
箱罠の内部にイノシシをおびき寄せるには、餌付けを続けながら時間をかけて警戒心を解いていく必要があります。 警戒心を解くための「慣らし」の期間は、餌をやる際に罠にはできるだけ近づかないこと、見回りは手際よく、なるべく人間の痕跡を残さないようにすることがポイントです。
大きいサイズの個体ほど、長年生き延びてきたことから警戒心が強く、おびき寄せるのに日数がかかります。じっくりと慌てず、獣の動きを読んで行動しましょう。
餌の種類
餌の種類としては、米ぬかを主体にすればまず間違いないでしょう。米、さつまいも、果物、酒粕、ワインなどを組み合わせる場合もあります。芋や果物類は、予め切り刻んでおきます。米ぬかは雨水で流れてしまう場合もあり、見回りの際は、替え用の米ぬかや、替え作業に使うスコップ等を持っていくと便利です。他にも、仕掛けの糸を張り直す場合等を考慮し、張り替え用の蹴り糸や道具を持っておくなどすると良いでしょう。
※周辺で栽培されている農作物を餌に用いると、これまでその農作物を餌と認識していなかった個体も餌と認識するようになり、被害が増大する可能性があるため、餌付けに使用するのは避けましょう。
餌の撒き方
餌は罠から10m以上離れた場所から、罠に向かって点々と置いていくとよいでしょう。はじめのうちは、罠から離れた位置しか食べませんが、餌付けを続けるうちに、徐々に罠に近い位置の餌も食べるようになります。
慣らしの期間は箱罠の扉を上げたまま落ちないようにしておき、ターゲットを油断させます。箱罠の入り口すぐ近くまで食べるようになったら、トリガーを作動可能な状態にして、ターゲットを捕獲できる状態にします。
Q.餌を巻く場所は、箱罠内のどの位置?
A:片扉式の場合
箱罠の片側だけが扉となっている片扉式の場合、大きな個体でも体がスッポリ入ってからトリガーが作動するよう、奥のほうに蹴り糸を張っておき、その近くに餌を多めに撒いておきましょう。
ターゲットが奥の餌をを食べようとした際に、確実に蹴り糸に触れるようにしておきます。
B:両扉式の場合
箱罠の両側に扉があり、どちらからも中に入れる両扉式の場合、箱罠の中央に蹴り糸を張り、その付近に大量の餌をまいておくことで、どちらの扉から入った獣も確実に蹴り糸に触れるようにしておきます。
Q.片扉と両扉はどちらを選ぶべきか?
両扉の場合、罠に入ろうとする獣の目線で考えると、突き当りに壁がないため警戒されにくくなります。
そのため、片扉よりも両扉のほうが獲物を罠内部に誘因しやすく、罠に入るまでの期間を短縮できる傾向があります。一方で、片扉の場合は出入口が一か所なので、捕獲する瞬間に獲物に逃げられる確率が低くなります。
両扉の場合、片方の扉を閉じておいて片扉として使うこともできるので、どちらを選択するか迷った場合は両扉を選ぶとよいでしょう。
まとめ
箱罠は罠猟のなかでも主流で、効果も高く安全性も高い方法です。経験が浅くとも、適切に設置・餌付けができれば、必ず捕獲できると思います。
なお既製品の場合、価格は概ね8~10万円程度しますが、有害鳥獣の駆除目的であれば自治体から補助金が出る場合もあります。
新規で箱罠導入を検討中の方や、買い替えを考えている方は、罠を設置する区域の自治体に問い合わせてみるとよいでしょう。