箱罠を使って獣を捕獲する場合、罠の内部に入ってくるように餌で誘引することが必須になります。獣の種類によって好みが違うので、ターゲットに合わせて餌を選定したり、餌の撒き方を工夫する必要があります。
寄せ餌について
箱罠の外観は明らかに人工物で、しかも獣から丸見えの状態で設置する形となりますので、設置後すぐは必ず獣に警戒されます。誘引目的の撒き餌(寄せ餌)なしには、獣はまず近づこうとしません。獣からすると、突如現れた箱罠に対して恐怖心と警戒心しか無いわけです。そのため、餌を使って食欲という本能に訴えかけ、警戒心を解く作業が必要になってきます。
ここで重要なのは、箱罠を「ここは安全・安心な餌場だ」と獣に認識させることです。罠が作動しない(扉が落ちない)状態で根気よく餌を撒いておくと、警戒心が高い獣も徐々に警戒心を緩めて罠に近づくようになります(「慣らし」とも言います)。
慣らしをする場合は箱罠を中心に、やや広範囲に餌を撒きます。箱罠の位置から少し離れた位置にも餌を撒いておき、継続して食いつくようになってきたら、徐々に離れた位置の餌を減らしていき、箱罠の近くに誘導していきます。
設置した箱罠をトレイルカメラで観察するとよく分かるのですが、慣らしがほとんど必要ない個体もいれば、罠の内部になかなか入ろうとせず、入ったとしても浅い位置の餌を少しついばんですぐ逃げる個体もいます。また、箱罠のことを学習していない幼獣や好奇心の強い若い個体のほうが罠の内部に入ってきやすいです。
人間でも慎重なタイプの人もいれば、油断しやすい人などいろんな性格の人がいますが、獣も同じです。獣の種類や個体によって警戒心の強さが変わってきます。
イノシシ
イノシシは他の動物とくらべて警戒心が高く、箱罠の内部になかなか入ろうとしないケースも少なくありません。仕掛けてすぐに獲れる場合もありますが、数か月かけてじっくり慣らす場合もあります。
イノシシの餌付け
イノシシの場合、母親と子どもたちが一緒に行動することが多くあります。慣らしの時点で、幼獣はすぐに罠に入るようになるのですが、母親が警戒して箱罠になかなか入ろうとしないケースがよく見られます。 罠の奥に入ろうとしない状態で箱罠を作動させると、取り逃がしが起こります。一度逃げた個体や、箱罠に捕まった仲間を見て学習したイノシシは、撒き餌をしても箱罠に近づこうとしなくなります。
まずはイノシシが箱罠の扉まで来るようにするまでが第一段階、その後 罠の奥に入るようになるまでが第二段階です。第一段階をクリアしても、ターゲットが奥に入ろうとしない場合は根気よく餌付けを続けるとともに、獣が罠の奥まで入ってきやすいよう工夫をします(たとえば罠の奥に行くほど餌の量を多く撒き、手前に撒く餌は少なめにする等)。
重要なのは、獣の痕跡をきる限り観察し心理状態を読み取ること、奥に入るようになるまで焦らないことです。※箱罠周辺をトレイルカメラで撮影して、獣の動きをよく観察のするのがおすすめです。なぜ箱罠にかかってくれないのか、トレイルカメラの映像にはヒントがたくさんつまっています。
くくり罠の場合はそもそも獣から隠した状態で仕掛けるので、人間の痕跡ができるだけ残らないようにするのが鉄則ですが、箱罠の場合はそもそも人間の痕跡が丸分かりの状態です。継続的に毎日餌を撒くことによって、「人間=怖い」という認識から「人間=餌をくれる」という認識に変えていきます。 獣の警戒心が薄れ、安心して箱罠の奥の位置の餌をたべるようになってから、箱罠が作動する(扉が落ちる)ようセットして一網打尽を狙います。
餌の種類
イノシシをターゲットに誘引する場合、地域や人によって若干変わってきますが、最もベーシックなのは米ぬかです。誘引効果が高いという点、誘引比較的手に入れやすいという点と、粉状なのでスコップ等を使って作業しやすいという作業性の利点もあります。
※米ぬかは雨などに流されやすく、濡れるとカビが発生しやすいので、罠の内部に撒いた米ぬかが濡れないよう、天井を雨避けシートなどで被っておくのも良いでしょう。古い米ぬかは何日かに一度掃除して、新しいものと入れ替えたりします。
他にも、食いつきを観察しながら古米やくず米、イモ類や野菜を混ぜたりしますが、食いつきが悪い場合は奥の手として発酵飼料や酒粕を混ぜたりもします。混ぜる際は、プラスチックフネ(トロ舟)を使うと便利です。
シカ
シカもイノシシと同様、米ぬかや古米を使いますが、シカのみをターゲットにする場合は、アルファルファ(乾燥牧草)やヘイキューブ(アルファルファなどの乾草を固めたもの)を使います。
シカは塩分を好むので、鉱塩や醤油を使って誘因する場合もあります。また、最近ではシカ専用の誘引剤としてシカが好む鉄分を含有したものも販売されています。
タヌキ・アナグマ・アライグマなど
これらの獣はイノシシやシカと比べると体が小さいので、箱罠のサイズもやや小さめのものを使います。雑食性のため、ハムやソーセージ、ピーナッツ、スナック菓子、揚げパン、ドッグフードなど、安価で油分が多いものを使うことが多いです。鶏肉で捕獲できることも多いですが、ターゲット以外の動物(例えばイタチやテン)が誤ってかかる場合もあります。
ハクビシン
果樹を好むので、熟した果実(柿やバナナ等)を使います。使用する箱罠はタヌキやアライグマ等と同じようなサイズです。※当社では、お手軽な折り畳み版と、頑強仕様版の2タイプの箱罠を用意しています。折り畳み版はとにかくお手軽に箱罠を設置したい方、頑強版は何度も使えるしっかりした仕様のものをお探しの方にお勧めしております。
動物ごとに餌付け方法や箱罠を使い分けよう
動物ごとに身体の特徴や好物は異なってきますので、ターゲットとなる動物ごとに餌や使用する箱罠を変える必要があります。大物ターゲットの場合は大きいサイズの箱罠を使いますが、ターゲットのサイズよりも箱罠が大きすぎると、網目の隙間を抜けて逃げられてしまいます。
他にもよくあるケースとして、餌付けが成功したと思っていたら、実はターゲットとは違う種類の動物が餌を食べていたという場合もあったりするので、食痕や足跡・糞、カメラ映像などをしっかりチェックすることが基本になります。
とくにイノシシの場合、箱罠から離れた位置の餌だけが食べられる期間が続く場合もあり、心が折れそうにもなりますが、イノシシは人が考えている以上に賢く臆病で、簡単には捕まらないもの。忍耐と継続で少しずつ警戒心を解いていくようにします。