野菜や果物などの農作物を栽培する方法は、「露地栽培」と「施設栽培」に分かれます。このうち「施設栽培」は、ビニールハウスなどを利用して野菜や果樹などを栽培する農法で、露地栽培と比べると安定した収穫量が得られること、旬でない時期の野菜も栽培できる点等が大きなメリットです。
しかしながら、作物の生育に必要な温度や湿度を確保できない場合は、加温・保温を行う必要があるため、暖房設備を併設しなければなりません。例えば、トマトやナスなどは、15℃以下で生育が鈍り、5℃以下では生育が停止してしまいます。
そして、施設栽培における暖房設備として最も多く使われているのが、重油ボイラーです。気温が低い地域においては、冬にハウスで育てる作物にかかる暖房費が数百万円に達する場合もあり、経営費に占める燃料費の割合が非常に高い状態になります。
そのため、原油価格が高騰すると、営農に大きな影響を与えます。原油価格が乱高下を繰り返す近年の状況は、石油系のボイラーのみを使う施設栽培農家の方々にとっては、苦労が絶えない状況といえるでしょう。
図1. A重油価格の推移(水産庁ホームページから抜粋)
豆知識:そもそも重油って?
油田から採掘されたそのままの状態で、精製されていない石油のことを原油といいます。この原油を、製油所で蒸留することによって、ガソリン、灯油、重油、軽油など様々な種類の石油製品になります。
具体的には、沸点の差を利用してそれぞれの分けられるのですが、ドロッとした重油は360℃以上の熱で精製されます。
重油の種類は、粘度の違いによって、1種(A重油)、2種(B重油)及び3種(C重油)の3種類に分類されます。 C重油とは、もっとも低規格の残渣油で、不純物が多いため環境負荷が高く、他の石油製品に比べて燃焼効率が悪いですが、価格はA重油よりも3~4割安くなります。
船舶用の大型ディーゼルエンジン、火力発電所や地域冷暖房用の大型ボイラーなどの燃料に使われます。 B重油は軽油50%、残油50%程度の混合物であり、ディーゼル燃料やバーナー燃料として使用されます。
今ではほとんど生産されません。 A重油は、ガソリンスタンドで販売されている軽油とほとんど成分が変わりません(若干炭素の含有率が高いです)。軽油には1リットルあたり32.1円の税金がかかりますが、A重油は用途を農業用・漁業用に限定することを条件に、消費税以外の税はかかりません。農耕機や船舶や、ビニールハウスの暖房の燃料に使われることが多いです。
ちなみに、A重油は無税であることから軽油よりも安くつくため、ディーゼルエンジンにA重油を用いるなどの不正が過去に多発しました。 そのため現在では不正が起こらないように、A重油にはクマリンという化学物質を混ぜるよう法律で義務付けられています。
クマリンは特定の波長の紫外光により蛍光するため、今では軽油とA重油を簡単に見分けることができます。
原油価格が変動する理由
市場において価格が決まるのは、市場参加者が売り買いの意思表示をすることで、売り買いが均衡する価格で落ち着く仕組みによります。
原油の市場参加者の売り買いの意思表示に影響を与えるのは、原油や石油製品の需給動向に加え、将来の需給に対する懸念、金融の動向、紛争やテロなど地政学的リスクです。これらの影響を受けて市場参加者の意思が変わることにより、原油価格が変動します。 そして、直近の原油価格は高値水準が続いている状況です。
石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどOPEC非加盟の主要産油国が2018年3月に期限が切れる原油の協調減産を18年末まで再延長したこと、イランでの反政府デモや中東最大の産油国サウジアラビアで政情不安が続いていることによって原油の供給が途絶える懸念があること、円安の影響などを考慮すると、原油価格が大きく下落することは当分の間はないと思われます。
石油を使わない農業用ハウス暖房
燃料として重油をはじめとする石油を多用する施設栽培においては、現在の原油の高値水準での暖房費は、非常に大きなコスト要因となります。そのため、従来の石油ボイラーとは異なる、別の暖房方法を使用する動きが目立つようになってきています。
▼バイオマスボイラー
バイオマスボイラーは、再生可能な天然エネルギーを活用したボイラーです。燃料としては、固形燃料が使用されます。メリットとしては、エネルギーコストの削減、CO2排出量の削減、廃棄物処理コストの削減が挙げられます。
固形燃料は、木材をチップ化して使うものと、木材や様々な残渣物をリサイクル燃料としてペレット化して使うものに分かれます。ペレットの種類としては、木質ペレット以外にも、おが粉、汚泥、農業残渣(こんにゃく飛粉)、食品残渣(コーヒーかすなど)、RPF(ビニールやプラスティックごみ)など、今まで捨てられていたものを利用した様々なペレット燃料が製造されています。
難点としては、安定した燃料調達が難しいこと、初期導入のコストが大きいことが挙げられます。
ヒートポンプ
ヒートポンプは、熱を運ぶ動力源として電気を使います。そのため、消費電力の数倍の熱を暖房に利用できる特徴があります。
やはり、難点としては導入コストです。一例としてですが、300坪にヒートポンプ10馬力を2台導入すると、本体で約260万円(2台分)、搬入取付・配管工事で約50万円、電気工事で約90万円、合計約400万円の初期投資費用がかかります。 ※電気工事費はハウスと電気の引き込み位置によって大きく異なります。
しかしながら、暖房にかかる運転コストは、A重油温風暖房機のみに比べ30~40%ぐらい下がると言われます。例として、年間重油暖房費が100万円のケースであれば、年間40万円ほどのコスト削減になります。
ただし、ヒートポンプのみで施設の暖房を補おうとすると、台数を多く入れなければならないため、導入コストがかかり過ぎてしまいます。そのため、トータルコストを低くする目的で、A重油温風暖房機を併用したハイブリッド運転が一般的です。A重油価格が50~60円を超えるとヒートポンプ暖房の方が運転コスト面で有利となります。
まとめ
原油価格の変動に大きく影響を受けるA重油を使用した温風暖房機だけで施設栽培を行っていくのは、かなりリスクの大きい状況です。
昨今の重油価格を鑑みても、石油を使わない暖房方法は大きなコスト削減効果があります。 うまく活用すれば、燃費に縛られることのない積極的な施設栽培を展開することが可能です。重油ボイラーだけお使いの施設農家の方は、併用を一度検討してみてもよいと思います。