アナグマの特徴と対策について

アナグマの特徴と対策

アナグマはイタチ科の動物であり、日本でも広く分布していますが、その生態や習性については意外と知られていない部分も多いです。農作物への被害や人間とのトラブルが増える一方で、ジビエとしての活用も注目されています。本記事では、アナグマの特徴や被害の実態、そして対策方法からジビエとしての活用まで、総合的に解説します。

アナグマはタヌキやハクビシンなど、姿かたちが似た動物が多いため誤認されやすい存在です。しかし、分類や具体的な生態を理解すれば、的確な対策や被害の予防につなげることができます。アナグマの独特な冬眠習性や雑食性は、農作物被害を生むきっかけとなりやすいため、正しい知識を持つことが非常に大切です。

近年では、アナグマ肉をジビエとして利活用する動きもみられ、捕獲した個体を有効に利用する取り組みが注目されています。地域の野生生物と共存しながら、被害を最小限に抑えるにはどうすればいいのか、本記事を通じて具体的な方法を学んでいきましょう。

アナグマの特徴

アナグマは、古くから日本人に馴染みのある野生動物です。例えば、「同じ穴の狢(ムジナ)」という言葉があります。

一見別のように見えても、実は同類の悪党であることをを指す言葉ですが、この「狢(ムジナ)」とはアナグマの異称です。

アナグマは食肉目イタチ科に属し、タヌキやイタチ、ハクビシンなどと同じ分類群に含まれます。国内に生息しているものはニホンアナグマと呼ばれ、日本固有の亜種として知られています。一見すると足が短くずんぐりとした体形が特徴ですが、実際には土を掘り返す筋肉が発達しており、力強い動きを見せます。夜行性であることが多いものの、巣穴を中心とした生活圏では日中の活動が見られる場合もあります。性格は温厚で、他の動物と争わずにうまく共存することが多いです。

警戒心も強くないので、人間が近づいても逃げないことがあります。餌探しなど、他のことに気を取られていると、そばにいる人間に気づかないこともあります。

分類

アナグマはヨーロッパアナグマやアジアアナグマと同じアナグマ属に分類されます。日本のニホンアナグマは学名をMeles anakumaといい、イタチ科の中でも地中に頑丈な巣穴を作る特徴を共有します。ヨーロッパアナグマなどと比較すると体格がやや小柄で、顔の模様や行動様式にも若干の差異が見られます。

体の大きさや体つき

頭胴長は約40~60センチ程度、体重は10kg前後です。足は短めですが非常に力強く、前足の爪が発達しているため土を掘るのが得意です。顔には特徴的な模様があり、タヌキやアライグマと似ているようにも見えますが、よりずんぐりとして筋肉質な体つきが大きな違いといえます。

指は前肢、後肢ともに5本あり、親指はほかの4本の指から離れていて、どの指にも鋭い爪があります。

世界、日本での生息分布

アナグマ属はヨーロッパからアジアにかけて広範囲に分布し、日本では本州・四国・九州などに生息しています。海外で分布しているヨーロッパアナグマやアジアアナグマとは一部生態や外見が異なるものの、地中に巣を作る習性や夜行性である点を共有しています。日本の中でも寒冷地帯の方が冬眠期間が長くなるなど、地域ごとの差異が存在します。

おもに里山の森林域で土中にトンネル状の巣穴を掘って生活します。巣穴は地下で複雑につながっており、出入口が複数あります。

なお、タヌキは自ら巣穴を掘ることはしませんが、アナグマが掘った巣穴の内部をタヌキが休息・繁殖のために利用することがあり、前述の「同じ穴の狢(ムジナ)」はここから生まれた言葉であると考えられます。

話は逸れますが、愛らしい見た目で人気の犬種ダックスフンドは、ドイツ語でアナグマを指すダックス(Dachs)と、犬を指すフント(Hund)を合わせたことが語源で、巣穴の中にいるアナグマを狩る目的で手足を短く改良された種です。

都市部に出没するケースもあり、建物の天井や床下などに住み着く場合もあります。家屋に侵入されてしまうと、床下に無数の穴を掘られたり、溜め糞という習性によって床下に大量に糞をしたり、その結果として悪臭や害虫の発生を引き起こす原因になることがあります。

食性

雑食性です。昆虫やカエル、モグラ、ミミズなど動物質のものを好みますが、果実類などを食べることもあります。トウモロコシ、スイカ、イチゴなどの農作物が食害を受ける場合もありますが、特にミミズや昆虫を摂取する際には土を大きく掘り返し、農地を荒らす原因にもなります。

擬死

アナグマは身の危険を感じると、死んだふりをする「擬死」と呼ばれる行動をとる場合があります。これは捕食者に対して無害さを装い、攻撃の意欲を減退させるための戦略だと考えられています。完全に動きを止めるため、不意に遭遇した人間が驚くこともありますが、アナグマ側にとっては重要な防衛手段です。

繁殖時の特徴

アナグマの繁殖期は初春から夏にかけてといわれ、1回の出産で2~3頭の子を産むことが多いです。遅延着床の期間を経てから出産するため、季節によっては妊娠期間が長く感じられることもあります。巣穴の中で母親が子育てを行い、秋になると巣立ちを促すものの、メスの子がしばらく共に生活し学習を続けることが観察されています。

アナグマの見分け方〜タヌキハクビシン、アライグマとどう違う?

見た目が似た動物が多い中で、アナグマならではの特徴を理解して適切に見分けることが重要です。

アナグマはタヌキやハクビシン、アライグマなどと混同されがちですが、顔のマスク模様や尾の長さ、体の形状など微妙に異なる点が存在します。タヌキは顔の黒い模様がはっきりしており、アライグマは環状の尻尾を持つのが特徴です。ハクビシンは顔が細長く体毛の色合いも異なるため、注意深く観察すれば区別しやすいでしょう。

>鳴き声

アナグマは基本的にあまり目立った鳴き声を上げないとされますが、危険を察知した際には短い吠え声や咳のような音を立てることがあります。タヌキのように「ポンポコ」という太鼓腹の音はなく、アライグマのように声高な鳴き声も出しません。こうした声の違いも、夜間や暗所での見分けに役立つ場合があります。

1年の行動

アナグマは冬眠が大きな特徴で、地域によって差はありますが、11月下旬から4月中旬ごろまで活動が極端に減ります。タヌキは九州など暖かい地域ではほとんど冬眠しないケースもあり、ハクビシンやアライグマは冬眠しないため、ここでの違いがはっきりとした見分けポイントになるでしょう。季節によっては行動が見られない時期が長い場合、アナグマの可能性が高いと考えられます。

ふんの違い

アナグマのふんは比較的柔らかく、土や昆虫の殻、果物の種などそのままの形が残ることがあります。一方、タヌキは特定の場所につく糞溜まりを形成する傾向が強く、臭いもやや異なります。ハクビシンやアライグマのふんには果実や種子が多く含まれる場合が多いですが、アナグマの場合は昆虫の幼虫や野草の繊維が多いなど、観察すれば判別の手がかりになるでしょう。

タヌキ等との違い

タヌキはイヌ科、アナグマはイタチ科ですが、食性や行動で似た部分が多く、古来からこの二種は混合されてきました。例えば、「タヌキ寝入り」と呼ばれる擬死行動は、アナグマでも見られます。

ちなみに、冒頭でムジナとは、主にアナグマのことを指すと書きましたが、地方によってはタヌキやハクビシンを指したり、これらの種をはっきり区別することなくまとめて指している場合もあります。

主な見分け方としては、尾の外観による識別です。タヌキもアナグマも、20センチに満たない短い尾を持ちますが、タヌキの尾にはしま模様がありますので、そこで見分けます。他にも、アナグマはタヌキにくらべて鼻が大きく耳が小さく見えることや、指の本数がタヌキは4本だがアナグマは5本で鋭い爪を持つといった点でも見分けることができます。

ハクビシンもアナグマと見間違えられることの多い動物ですが、ハクビシンには額から鼻にかけて白い線があるのと、尾が長いこと、鼻がピンク色であることなどから見分けることができます。

ハクビシンは高いところを好み、アナグマは低いところが好むため、屋根裏に住み着くケースはハクビシンの場合が多いです。

参考記事:ハクビシン対策について

他にも、アライグマと混同されるケースがあります。 日本固有種であるタヌキやアナグマと異なり、アライグマは外来種です。タヌキやアナグマとの違いとして、長いふさふさとした尾に黒い横縞がアライグマにはある点が挙げられます。

また、アライグマも足には5本の指がありますが、アライグマの指はアナグマと比べると長いことが特徴です。

参考記事:アライグマの生態・対策・駆除について

なお、アナグマはアライグマとの競合などによって生息数が減少しているとも言われています。繁殖率もそこまで高くないため、自治体によっては絶滅危惧種Ⅱ類や準絶滅危惧種などに指定されています(地域によっては、近年の個体数は回復傾向にあるともいわれます)。

アナグマが及ぼす被害について

農作物への被害や人とのトラブルが増える一方で、誤解も多いアナグマの被害内容を見ていきましょう。

アナグマによる被害は、主に土を掘り返す行動によって農作物や庭木が倒される、根が食べられる、あるいは飼育している家畜やペットとのトラブルが起こることです。特にミミズを探すために大きな穴を掘る場合があり、畑やゴルフ場など、人間が利用する土地を荒らしてしまうのが懸念点となります。

被害内容

耕作地に侵入してイモ類や果実、根菜などを食い荒らす被害が報告されています。巣穴を掘る場所によっては畑の畝が崩れたり、地下の設備やパイプを破損してしまうケースもあります。雑食性のため季節を問わず被害が発生しうる点が、農家にとって頭を悩ませる要因といえます。

アナグマの気性は荒い?危険?人を襲う?

アナグマは基本的に臆病な性格で、大きな敵と遭遇した際には逃げるか擬死を行うのが一般的です。しかし、追い詰められると威嚇したり噛み付いたりする可能性もあるため、むやみに近づかないことが大切です。狂犬病などのリスクは極めて低いものの、不用意な接触は避け、安全確保を最優先に考えましょう。

アナグマを見つけたらどうすればいい?

自宅や畑でアナグマを発見した場合は、まずは刺激せず静かに距離を取るのが無難です。逃げ道を確保してやれば自然に立ち去ることも多いため、むやみに捕まえようとしないようにしましょう。農家で被害が深刻な場合は、自治体や専門家に相談し、適切な捕獲や追い払いの方法を検討することが望ましいです。

アナグマ対策について

アナグマ、タヌキ、アライグマ、ハクビシンなどの小型獣を防除対象とする場合、手段としては捕獲を採用するケースが多いです。

そして、捕獲には小型の箱罠を使用します。 アライグマは、外来生物法で指定された特定外来生物であり、生態系や人の生命・身体への影響、農林水産業への被害を防止することを目的に積極的な防除の対象となっています。

参考動画:アライグマCM

一方で、アナグマは鳥獣保護法で定められる狩猟鳥獣に含まれるものの、県によっては捕獲禁止または制限を行っている場合があります。 そのため、捕獲を行う前に、捕獲可能かどうかを自治体に確認しておく必要があります。

もちろん、法定猟法である罠を使用して捕獲する場合は、狩猟免許や登録が前提です。また、猟期以外に捕獲を実施する場合は、有害鳥獣駆除の許可が必要です。 ホームセンターなどでも売られている折り畳み式の箱罠で捕獲を行うことが可能です。

しかしながら、アナグマやアライグマは比較的力が強く、特に体の大きい個体の場合、捕獲できても罠の隙間を押し広げて逃げてしまう場合がありますので、強度の強い罠を選ぶと良いでしょう(イノホイおすすめの罠はこちら>>)。

箱罠の大きさとしては、高さ・幅ともに30cm程度、奥行は80cm程度のもので対応できますが、大き目の個体の場合や捕獲効率を上げたい場合は、高さや幅にもう少し余裕を持たせましょう。

雑食性のため、餌は果樹をはじめ様々なものが使われます。警戒心も強くないので、捕獲の難易度はそれほど高くありません。

タヌキやハクビシン、アライグマを狙った罠で混獲されることもあります。 田畑への侵入を防ぐ場合は、地面を掘って入ってくることを防ぐことが重要です。

防護柵を採用する場合、柵の下部30cm程度を地面に埋め込みましょう。ただし、高さが40cm程度だと、乗り越えようとする場合がありますので、埋め込みすぎて、柵を上から超えられないように高さを補うなど工夫しましょう。

アナグマのジビエ利活用

捕獲したアナグマを廃棄するのではなく、有効に活用する方法としてジビエ利用が注目されています。

近年のジビエブームに伴い、アナグマ肉にもスポットが当たるようになりました。狩猟によって得られた肉を地産地消で活用することで、野生動物がもたらす害を減らす一方、地域の食文化を豊かにする取り組みにもつながります。ただし、適切な処理や衛生管理が求められるため、専門家の指導や公的なルールに沿って利用することが大切です。

アナグマの肉は美味しい?

アナグマの肉は脂肪分が多く、旨味が強いと評価されることがあります。一般的にはクセの少ない赤身に程よい脂がのった味わいで、匂いがある程度あるものの、しっかりと下ごしらえを行えば気にならない程度に仕上げられます。地域によっては昔から貴重なタンパク源として珍重されてきた背景もあり、人々の口に合うジビエとして注目を集めています。昔話で出てくるタヌキ汁は、おそらくアナグマの肉を使った汁だと推測されます。

美味しく食べる方法は?

代表的な調理法には煮込みやシチュー、焼き肉などが挙げられます。煮込み料理では、脂の甘みとコクを引き出すために野菜や香辛料と一緒にじっくりと煮込むのがポイントです。臭みが気になる人は味噌や赤ワインなどを使用したマリネで下処理をすると、より食べやすい仕上がりになります。

ジビエとして出回るケースも稀にあるため、機会があればトライしてみることをお勧めします。

まとめ、総括

アナグマとの上手な付き合い方や今後の課題を振り返り、対策と活用の両面から総括する。

アナグマは土を掘る習性や雑食性ゆえ、農作物への被害を引き起こす半面、その柔軟な生態は日本の山間地や農地周辺に適応してきた証でもあります。被害を防ぐための物理的な対策や罠の活用、さらには忌避剤による追い払いなど、状況に応じた対策を総合的に実施することが大切です。また、捕獲したアナグマをジビエとして活用する取り組みは、持続可能な資源利用として注目されており、地域の課題解決や食文化の多様化にも寄与します。今後はアナグマの生態をより深く理解しながら、人と野生動物が共存できるような環境づくりを進めていくことが求められるでしょう。

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