ヌートリアは南アメリカ原産の大ネズミで、特定外来生物です。特定外来生物とは、元々日本にいなかった外来生物のうち、生態系などに被害を及ぼすものとして政府が指定した動物のことです。
見た目はカピバラやビーバーにも似ており可愛いとも言われますが、水辺の植物を旺盛に食べることから、西日本を中心に稲などへの農業被害が報告されています。その被害額は、全国で年間およそ5,400万円にのぼります(※農林水産省による公表値はこちら)。
ヌートリアの特徴
ヌートリアはネズミ目に属する動物で、頭胴長は約55~63cm、体重は約6~10kgほどで、ネコよりもやや大きいくらいです。
西日本を中心に、岡山県、愛知県、三重県、岐阜県、京都府、大阪府、兵庫県、香川県などで生息が確認されています。寒さに弱いため、冬場は活動が鈍り、氷結がみられるような寒冷地では生息できません。
見た目の特徴や生態
見た目の特徴としては、まず暗褐色の毛皮をもつこと、齧歯類でありオレンジ色の大きな前歯をもつことが挙げられます。
尻尾は長く、体と違ってあまり毛が生えていません。 後ろ足の第1指から第4指までには水かきがあり、水泳や潜水が得意です。足跡が特徴的(後ろ足のほうが前足よりも大きく、後ろ足だけに水かきの痕跡、尾を引きずったような跡)なので、他の動物の痕跡と区別しやすいです。
平野部の河川や水路、池などの水辺に生息しており、土手や畔(あぜ)などに長い巣穴を掘って、雌雄のペアで生活することが多くあります。
雄・雌で見た目に大きな違いはありませんが、雄のほうがやや大きな体つきをしています。
雌は春に出産する個体が多いですが、季節を問わず繁殖し、年に2・3回、平均5匹の子を産みます。また、妊娠期間は約130日で、生後半年ほどですぐに性成熟し、繁殖が可能となります。これらのことから、繁殖力は非常に強いといえます。
食性や性格
食性としては、ハスやマコモ、ヨシ、ヒシなど水生植物の茎や根茎を好んで食べます。また農作物では水稲の苗をよく食べ、ニンジン、サツマイモなども食べます。基本的には草食性ですが、貝などの動物質の餌も食べることがあります。
基本的には夜行性で明け方と夕方に餌を求めて活発に行動しますが、日中に排水溝の中を隠れながら移動するケースも報告されています。
アライグマ等と比べると、性格は温厚ですが、追い詰められると激しく噛み付く事があります。
ヌートリアが繁殖した原因
先日公表された環境省の生息分布調査結果によると、ヌートリアの生息分布域は以前よりも大きく拡大しています。 2002 年以前のヌートリアの分布と比較すると、東海地方以西に分布するという基本的なパターンに変化はありませんが、特に近畿・中国地方での分布域拡大が目立っています。
また、淡路島、小豆島のような瀬戸内海の島嶼でも分布が確認されています。 そもそもヌートリアが日本で生息するきっかけとなったのは、毛皮増産を目的として1939年にフランスから移入され養育されたことです。
戦争の勝利を連想させる「沼狸」(しょうり)という名称がつけられ、毛皮を兵隊用の防寒着として利用するために日本全国で飼育されていました。
しかしながら、戦後その需要がなくなると放逐されるようになり、逃げ出した個体が野生化・繁殖した結果、現在は生態系を破壊する外来種として扱われるようになりました。
ヌートリアによる被害を防ぐために
現在、ヌートリアの生息密度が高い地域では餌としての農作物被害が発生しているほか、寝床を確保するため、稲を倒してしまう被害も見られます。土手が巣穴だらけにされることで田畑の畔や堤防の強度が低下するといった治水上の問題も懸念されています。実際、2019年夏の西日本豪雨では、岡山県で、ヌートリアの巣穴を原因とするため池の部分崩落が確認されています。
また、兵庫県のため池では水生植物を食害し、在来種であるベッコウトンボの生息環境を壊滅させるなどの生態系への被害も発生しています。そのため、被害金額の高い地域では特に積極的な防除が行われるようになっています。
基本となるのは環境管理
他の害獣対策でも共通していえることですが、基本となるのは被害を防ぐための環境管理です。
食害が懸念される田畑まわりや耕作放棄地、巣穴周辺などの草を刈り払い・焼き払いすることにより、ヌートリアが生息しずらい環境にすることが有効です。地域の各農家が自衛の共通意識を持ち、各々が積極的に除草を行うと良いでしょう。
また、ヌートリアは水位の変動に弱いという特徴を持っています。ため池などに棲みついている場合の対策として、定期的に水位を変動させ棲みづらい環境を作る対策も効果的です。兵庫県加西市では水抜きと同時に池の魚を捕まえる「じゃことり」を行うことで、ヌートリアの確認数が0になった事例も報告されています。
侵入防止対策
ヌートリアは鋭利な歯を持っているため、ネットを噛みちぎることがあります。そのため、トタン板などと組み合わせて防護柵を設置することが重要です。
また、アナグマ対策の場合と同様、地面を掘って入ってくることを防ぐことも重要です。防護柵を採用する場合、柵の下部20~30cm程度を地面に埋め込みましょう。ただし、高さが40cm以下だと、乗り越えようとする場合がありますので、埋め込みすぎて、柵を上から超えられないように高さを補うと良いです。
箱罠による捕獲
ヌートリアの捕獲は、おもに箱罠を使って実施します。箱罠とは、檻などで作られた箱の中に獲物が入ってトリガーが作動すると、出入口が閉まって獲物を閉じ込める罠のことです。檻の目が大きすぎなければ、基本的にどのような箱罠でも捕獲は可能です。
ヌートリアの警戒心はそれほど高くなく、スレたイノシシ等と比べると、捕獲の難易度は高くありません。
箱罠はヌートリアの出現頻度が高いと思われる場所に設置し、入り口を獣道や巣穴のすぐ近くに向けるよう設置します。
他にも、イカダを作ってヌートリアが生息する水辺に浮かべ、その上に箱罠を設置する方法もあります。この場合は錯誤捕獲(捕獲対象以外の動物の捕獲)が少ないですが、天候に左右されることや、設置や回収に労力がかかるというデメリットもあります。
ヌートリアは、甘みがあり臭いのあるものが好物です。また、長い時間罠を設置することを考慮すると、餌には傷みにくいものを選ぶ必要があります。そのため、ヌートリアの捕獲にはニンジンがよく用いられます。
また他にも、カボチャ、スイカ、サツマイモ等が用いられる場合もあります。
捕獲にあたっての注意
・箱罠の設置にあたっては狩猟免許(わな免許)や許可等が必要ですが、自治体によっては特定外来生物の捕獲従事者講習会を行っていることがあります。その場合、講習を受けることで捕獲従事者として登録され、狩猟免許を持たずに特定外来生物の捕獲、運搬が可能になります。
詳しくは各自治体の担当部署(農林水産部等)に確認してください。 ・箱罠を設置した場合、見回りを少なくとも1日1回は行いましょう。もしターゲットとは異なる獣を捕獲した場合は、速やかに放獣しましょう。
・野生動物は興奮すると暴れたり噛みつくことがあります。ヌートリアは顎の力が強く、人間の指程度なら容易に噛み切ります。また爪も長いため、捕獲個体の入った捕獲器を取り扱う際には手袋をはめ、捕獲器を自分の体から離して持つなど注意しましょう。ヌートリアに限らず、野生動物は病気を持っていることがありますので、もし外傷を受けた場合は医療機関を受診しましょう。
・ヌートリアは「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」(外来生物法)で特定外来生物に指定されています。そのため、飼養(運搬含む)
・譲渡(許可を受けた場合を除く)、放獣が禁止されており、捕獲した獣は適切に扱う必要があります。捕獲した獣の取り扱いについては、あらかじめ各自治体の担当部署(農林水産部等)に確認しておきましょう。
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