令和元年度の野生鳥獣による農作物被害金額は約158億円。年々被害額は減少しているものの、依然として獣害による被害は深刻な状況にあります。被害を食い止めるためには個人での対策には限界があり、グループや地域を挙げての取り組みが欠かせません。
本記事では最新のデータを元に獣害の現状と種類について解説します。また、具体的な対策についてもご紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
獣害とは?
獣害とは、イノシシやシカ、クマ、サル、ネズミなど野生動物によって被る様々な害のことを指します。
また飼い主の管理が不十分なペットによる害を指す場合もあります。かなり広い意味で用いられる言葉ですが、獣害の種類としては以下のようなものが挙げられます。
1:農業被害
獣害として真っ先に取り上げられのが農業被害です。野生鳥獣により、
- 農作物が食べられる
- 田畑を掘り起こされる
- ビニールハウスに穴をあけられる
といった直接的・間接的に受ける農業への被害を指します。
出典:農林水産省ホームページ
農林水産省の発表によると、令和1年度(2020年)の鳥獣による農作物被害は、被害金額が約158億円となっています。前年度と比較し被害金額は約2千万円増加(対前年0.2%)。微増ながら、被害額がピークとなった平成22年度(2010年)の239億円と比較すると、年々減少傾向にあることが伺えます。
また、被害面積は約4万8千haで前年度に比べ約3千haの減少(対前年7%減)。被害量は約45万8千tで前年に比べ約3万8千tの減少(対前年8%減)となりました。 これは、環境省が推進している指定管理鳥獣捕獲等事業の成果が出始めた点や、狩猟以外の有害捕獲が増加傾向にある点が背景にあります。
しかしながら、150億円超という被害額は依然として何年も高水準のまま推移している状況です。とくに留意しておきたいのが、本データでは趣味や家庭菜園といった農作物以外の被害は含まれていないということ。例えば、地方では日々の食料や地域でのコミュニケーションの一環(農作物の交換等)として、食料を生産するケースもあり、そういった農作物の被害金額は計上されないことも多々あります。
獣害対策を講じるにも、コミュニティが無い場合は個人での対応を余儀なくされるため、後手に回ってしまうのが実情です。 農業従事者の高年齢化により、獣害対策の負担が高まっている点も特筆すべきポイントでしょう。
2:森林被害
森林被害とは、野生動物の影響によって樹木そのものが被害を受けたり、森林における日本特有の生態系バランスが崩れてしまう被害のことです。
出典:林野庁ホームページ
林野庁による野生鳥獣による森林被害に関する調査データによれば、令和元年度の主要な野生鳥獣による森林被害面積は約4.9ha。これは前年度の約5.9haから減少しており、平成26年度(2014年)の9.0haをピークに減少傾向にあります。
とはいえ、依然として深刻なのがシカによる森林被害です。シカ(ニホンジカ・エゾシカ)の好物は様々な植物です。食べる植物の種類は極めて多く、芝や木の葉だけでなく、食べ物の少ない時期には樹皮も食べます。一帯の植物を食べつくし、山の植生バランスを変えるほどの被害を与えることもあります。
令和元年度のシカによる森林被害は約3.5千ヘクタール。野生鳥獣による森林被害の約7割を占め、2014年までの36年間で分布域が約2.5倍に拡大するなど被害が大きく拡大しています。
3.家屋被害
家屋被害とは、野生動物が家屋に浸入し、汚損などの被害を与えることを指します。平等院鳳凰堂や清水寺で、貴重な文化財にアライグマの爪痕が見つかったのは有名な話です。
近年ではアライグマやハクビシンが都心部でも生息域を伸ばし、屋根裏などに潜んで家屋被害をもたらす事例も多く報告されています。
最近では、加賀市橋立町の越前加賀海岸国定公園敷地内がイノシシによる被害を受け、芝生が掘り起こされるといった事例がありました。建物そのものだけでなく、こうした景観に対しての被害が発生するのも、獣害対策の難しさといえます。
4.人的被害
獣害種類の中で人的被害は、獣から人間が直接的・間接的に被害を受けることを指します。
獣から噛まれたりして怪我をしたなど直接受ける被害と、獣が害虫や病気を媒介して間接的に受ける被害があります。間接的な被害としては、たとえば、ここ10年ほどの間にハイキング、キャンプ、渓流釣りなどに行ったり、あるいは山林作業をする人々の間で「ヤマビル」に吸血される被害が全国的に増えています。これは、ヤマビルが吸い付くイノシシなどが、餌を求めて人里近くに出没する機会が増えたことが原因であると指摘されています。
運搬役となる野生動物の行動が広がった結果、ヤマビルも生息範囲を拡大していると考えられ、その影響でヤマビルによる人的被害も増えたことが指摘されています。
どうすればいい?獣害対策の3つのステップ
上記で述べたように、様々な種類がある獣害ですが、中でも農業や林業に携わる方にとっては、獣による被害は死活問題です。
基本的な獣害対策がわからず頭をかかえている方も多くいらっしゃいますが、獣害対策の基本的な進め方は、どのようなケースでも共通しています。ここでは、獣害対策の基本となる方針を3つのステップに分けて解説します。
ステップその1:グループを作る
獣害対策は1人で取り組むより、グループで取り組むことでより効果を得ることができます。当たり前のことのようですが、多くの獲物やエリアを1人で対策するよりも、グループを作って対策した方が効率的で効果も高まります。まずは少人数でもグループを作り、それを広げていくことで地域ぐるみでの対策が可能になってきます。
また、集落内で少数の人がいくら熱心に取り組んでも効果は上げられませんし、負担が集中してしまい長続きしません。地域の70%以上が取り組むことを目標として、グループへの参加メンバーを増やしていきましょう。
【自治体が獣害対策に取り組む事例】
グループや地域だけでなく、自治体が主導して積極的に獣害対策に乗り出す動きも増えています。長崎県対馬市では、シカによる獣害が多く、とくに森林被害が深刻です。そこで報奨金制度をはじめ、行政と住民が一体となった対策を取り入れています。このほどスタートしたのが、シカ捕獲用のくくり罠を助成する事業。森林被害を低減させるための補助事業として、全国でも先がけとなる事例で、獣害対策に取り組む上でのよいお手本の1つです。
ステップその2:害獣を引き寄せないよう地域の環境改善
地域の問題を、自分たちの問題だと考えることのできるメンバーが増えてきたら、皆で害獣を引き寄せないための環境改善を行っていきましょう。
具体的には、害獣への餌付けを防止することです。ほとんどの場合、獣は餌をもとめて人里に寄ってきます。人間が意図しなくても、獣が集落に来れば餌にありつけるような環境になってしまってはいないでしょうか。
知らないうちに獣にエサをドンドン与えてしまっている環境を無くすことが重要です。 例を挙げますと、以下のようなものが挙げられます。
- 稲刈り後のヒコバエ(2番穂)や農作物の残渣、残飯等が放置されている
- 放任果樹(収穫されない栗や柿など)がある
- お墓にいつまでも供え物が置いてある
- 管理されない耕作放棄地が多い(餌となる作物があったり、獣が安心して身を隠しながら人里に接近できる環境がある)
クズ野菜や生ゴミの放置を止めることはもちろんのこと、稲刈り後はできるだけ早く田起こしや株を焼き払います。また、野生動物にとって餌が少なくなる時期(冬)の前に草刈りをしないなど、獣にとって餌となるものは極力減らすようにしましょう。生息頭数に見合った餌がなければ、それ以上獣は増えません。
対策メンバー内で、集落内の餌となりうるものをチェックし、チェックリストを作るとよいでしょう。そして、作成したチェックリストに基づき、実際に集落内・周辺や農地を歩いて、放任果樹、生ゴミの放棄、被害状況などのフィールドチェックを行うと、対策をより具体化することができます。
また、活動によって得られた情報は地域住民に共有し、各々が自らの問題として捉えることができるよう時間をかけて働きかけましょう。主幹となるグループや被害住民だけでなく、周りの住民も共に汗をかいて協働するようになれば、仲間意識・連体意識が生まれ、さらに獣害対策を発展させることができるようになります。
ステップその3:柵の整備と個体数管理
防護柵や防護ネット等は設置したら終わりではなく、整備をしっかりすることが重要です。立派な柵を設置しても、その後で管理や整備を放棄してまうと、場所によってはかえって人足が遠のき、獣にとっての隠れ場が増えることになります。そのような場所を極力へらすことが重要です。
また、増えすぎた害獣は捕獲によって個体数管理を行う必要があります。野生鳥獣の捕獲には狩猟免許を取得して、法定猟具を使って捕獲することが求められます。狩猟免許ごとに使用できる猟具が決まっており、くくり罠・箱罠・囲い罠等を使用して捕獲する場合は、わな猟免許の取得が必要です。
まとめ
害獣による被害防止対策を行う場合、まず対策のためのグループを作り、被害を引き起こす要因を知ることが重要です。
その上で、被害要因に対応した施策を行う必要があります。上記の基本指針を参考にしていただき、害獣による被害を低減する一助になれば幸いです。