ジビエとは、フランス語のgibierをカタカナ読みにしたもので、ハンターが狩猟によって捕獲した野生鳥獣(souvage:ソバージュ)を食材として利用することを指します。
中世ヨーロッパでは、上流貴族が嗜みとして狩りを行い、領地で獲った鳥獣の肉を食していました。そのため、特にフランス料理界でジビエ肉は古くから高級食材として重宝され、特別な料理に使われてきました。
ヨーロッパの高級食材店に行くと、精肉売場のショーケースには家畜肉と一緒にジビエ肉が並んでいたりします。野ウサギ(lièvre:リエヴル)、マガモ(colvert:コルヴェル)、キジ(faisan:フザン)、イノシシ(sanglier:サングリエ)などがありますが、中でも王様は鹿(chevreuil:シュヴルイユ)です。
鹿肉は他の肉と比べて脂質が少なく、高たんぱく低カロリー、鉄分やミネラルが豊富であることが特徴です。高級フレンチコースのメインとして使われることも多く、一流シェフが様々なテクニックや趣向を凝らします。
鹿肉の赤ワイン&チョコレートソース
ゴードン・ラムゼイ(Gordon Ramsay)氏は、スコットランド出身の3つ星シェフです。ヨーロッパでとても人気のあるシェフで、英国ロンドンにある3つのレストランで、合計7つのミシュランの星を持ちます。
こちらの動画では、ゴードン・ラムゼイ氏が鹿肉の赤ワイン&チョコレートソースについて説明しています。
まず、オリーブオイルとバターで鹿肉の表面を焼いたのち、水分を逃さないためにバターを包んでいる紙で鹿肉を包み、オーブンで加熱します。 その間に、パンチェッタ(豚のバラ肉)、エシャロットとニンニク、挽いた黒コショウ、タイム(肉料理の風味づけに使われるハーブ)を軽く炒め、赤ワインを加えます。チキンブイヨンを加え、酢とダークチョコレートで仕上げをすると、赤ワイン&チョコレートソースの出来上がり。
赤ワインとチョコレートという一見変わった組み合わせのソースですが、フランス料理では肉料理を引き立てるためによく使われるものです。ゴードン・ラムゼイ氏は、スパイスやハーブの風味を調和させて肉の臭みを消し、苦みと甘みのバランスによって主役となる鹿肉の味を存分に引き立てるよう仕上げています。
鹿の鞍下肉にカボチャ、シャントレル、葉野菜を添えて
鹿肉も部位によって味や特徴が異なりますが、鞍下肉は牛肉でいうところのフィレにあたり、ロースのモモよりの部分です。とても柔らかく、フランス料理では極上部位とされます。
こちらの動画では、英国出身ミシュラン2つ星シェフ、ミシェル・ルー(Michel Roux Jr.)氏が鹿の鞍下肉を料理しています。ローストした鞍下肉に、秋の味覚としてカボチャ、シャントレル(アンズタケ)、クルミ、トレビスなどが添えられます。
アンズタケは日本ではあまり知られてないキノコですが、海外では食用キノコとして重宝されており、鹿肉を使った伝統料理に多く登場します。フランスでは「ジロール」や「シャントレル」と呼ばれ、アンズの香りがします。身近で採れるきのこであることから、高級なトリュフとは異なり庶民的なキノコとして広く親しまれています。
トレビスはヨーロッパ原産の赤紫色をした野菜で、見た目は紫キャベツに似ています。別名赤チコリと呼ばれ、苦みが特徴的。少量使うだけで映える食材です。 ミシェル・ルー氏は、これらの野菜とフルーティーで柔らかい鹿肉をマッチさせて、甘味、酸味、塩味、苦味、うま味のバランスが取れるよう仕上げています。
鹿肉と野菜・果物のなべ焼き
以下の動画は、フランスのベルサイユ宮殿入場口のすぐそばにある人気店Ore - Ducasse au château de Versaillesのシェフ、Stephane Duchiron氏による鹿肉と野菜・果物のなべ焼き(キャセロール)です。
キャセロールはフランスで古くから伝わる伝統料理で、野菜などを調味料と共にとろ火で煮込んだものです。乾燥させた鹿肉のフィレをローストし、キャベツやニンジン、キノコ、洋ナシや玉ねぎなどのキャセロールを添えています。
肉と果物を一緒に食すことに抵抗がある方もいるかもしれませんが、果実は鹿肉のポテンシャルを最大限に引き出すと言われるほど相性が良いです。旬の野菜や果物を、おいしくいただけるレシピです。
まとめ
鹿肉は猪肉等と比べてとても脂分が少ないので、他の肉と同じようにそのまま強火の網焼きにするとパサパサとなってしまい美味しくいただけません。日本における猟師メシでは、凝った調理法は行わないため、「シシ(肉)を知ったら、シカは食えん」という猟師の方もいらっしゃいます。
しかしながら、上記のように一流シェフがしっかりと仕込み・調理をすると、高級鹿肉料理になります。最近では日本でもジビエを扱う料理店が増えてきましたので、プロによる鹿肉料理がより身近になってきたように感じます。
すでに今月猟期に入った地域もあり、これからが鹿肉のシーズンです。旬の野菜や果物などを取り入れながら、舌のとろけるような絶品鹿肉料理を食べてみたいものですね。