シカ・イノシシの個体数について

シカ・イノシシ個体数

一昨日、環境省より平成30年度版 全国のニホンジカ及びイノシシの個体数推定等の結果が公開されました。それによると、現時点で最新の推定値として、平成28(2016)年度末の全国(本州以南)のニホンジカの推定個体数は中央値約272万頭、イノシシの推定個体数は中央値約89万頭となり、前年度に引き続き減少傾向であることが明らかになりました。

個体数推定のための統計手法について

シカは低い初産齢とほぼ毎年出産するという特徴があります。またイノシシは多産で、春に2~8頭の子を産みます。そのため、シカやイノシシは、大型哺乳類の中では短期間で大幅な個体数変動をおこなう種といえます。

しかしながら、このような場合の生息密度や個体数を精度高く推定する方法は確立されていません。上記の環境省の個体数推定では、①個体数(翌年)=個体数(ある年)×自然増加率-捕獲数、②個体数(翌年)=個体数(ある年)×ある年と翌年の生息数指標の変化率という2つの前提のうえ、階層ベイズモデルが用いられています。

階層ベイズモデルとは

階層ベイズモデルとは、「ベイズ理論」という統計手法を多段階にして導き出すモデルです。この推定モデルは、個体数推定のほかにも様々な分野で活用されています。概念としては「ベイズ理論」と対をなす「頻度論」と比較すると理解しやすいかと思います。

頻度論

コインを投げたときの裏表を例に挙げると、頻度論ではコインを投げたとき表が出る確率は二分の一です。頻度論では、無限回試行を前提とした確率で考え、主観的なパラメータは排除されます。

ベイズ理論

頻度論が無限回試行を前提としているのに対し、ベイズ理論は、その時点で持ち合わせた情報をもとにした一回限りの確率を積み重ねるという考え方をします。 また、ベイズ理論では主観性を考慮します。

そのためベイズ理論においては、現時点でデータが全くなかったとしても、主観的な数値によってとりあえず事前に確率を設定しておくことができます。この確率を事前確率といいます。

例えば、コインを投げる人はコイン投げの達人だから、表ばかり出すことを狙ってくるはずだ、だから表が出る事前確率は五分の四だ、といったような主観を入れることが可能なわけです。

そして、事前確率を設定したのち、何らかの新たな情報を得て、出した確率を事後確率といい、事後確率は新たな情報によって更新されていきます。新たな情報を手に入れたら、前回は事後確率だったものが事前確率となって、さらに確率の更新が行われるという仕組みになります。

どんどんデータを足して更新していけば、現象をより詳しく説明できる分布を推定することができるようになります。先ほど例に出したコイン投げで考えると、コイン投げの結果のデータを足して更新していけば、表が出る確率は二分の一というのが最もありえるモデルで、0や1に近いモデルほどありえなさそう、といった形の確率分布になります。

ベイズモデルを使った推定値は、点推定値と標準偏差、信用区間を基本に報告されます。点推定値とは確率分布の代表値のことで、中央値や平均値をおもに使います。信用区間とは、たとえば90%信用区間であれば「90%の確率でその範囲に真値がある」という区間になります。

シカ・イノシシの個体数の推定値について

さて、平成30年度版 全国のニホンジカ及びイノシシの個体数推定に話を戻すと、以下の結果が得られています。

ニホンジカの個体数推定結果

2016年度末における全国のニホンジカ(本州以南。北海道を除く)の個体数は、中央値で約272万頭となっています。50%信用区間では約237~314万頭で、90%信用区間であれば約199万~396万頭です。

イノシシの個体数推定結果

2016年度末における全国のイノシシの個体数は、中央値で約89万頭となっています。50%信用区間(50%の確率でその範囲に真値がある)は約80万~99万頭で、90%信用区間であれば約70万~116万頭です。

捕獲数の推移

環境省及び農林水産省は、2013年12月の「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」において、「ニホンジカ及びイノシシの生息数を10年後(2023年度)までに半減」することを当面の捕獲目標に設定しました。

具体的には、本州以南のニホンジカは、2013年度の推定値である261万頭を2023年度までに半減、またイノシシについては88 万頭から2023年度に50万頭まで減少させることを目指すとしていました。

これに伴い、捕獲数も年々増加しており、2016年度ではシカの捕獲数は約58万頭、イノシシの捕獲数は約62万頭に達しています(詳細な数値はこちらをご覧ください)。ここ10年の狩猟免許保持者数がほぼ横ばいであることを考えると、少ない捕獲者が効率的に狩猟圧を上げることができているといえます。
しかしながら、今回の個体数推定の結果、今の捕獲率※を維持した場合、2023年にはニホンジカの個体数が207万頭になるとされており、上記の目標に達することができない見込みとなっています。

また、目標を達成するには、捕獲率を現状の1.45倍にする必要があるとされています。※捕獲率:前年度の推定個体数に対する当該年度の捕獲数の割合 イノシシについては、生息数の将来予測は今回公表されておりませんが、目標達成のためには、引き続き同程度以上の捕獲を全国で行うことが必要であると考えられます。

今後求められる対応について

今後も引き続き、積極的な捕獲による個体群管理が不可欠となっており、今回の結果も踏まえた都道府県による捕獲目標の設定、捕獲状況の速やかな把握、目標の達成状況の評価、必要に応じた目標の見直しを推進していかなくてはなりません。

また、ニホンジカ及びイノシシを捕獲する事業を実施する都道府県は、交付金により支援されますが、都道府県による目標達成の評価が行われれば、それを踏まえた予算の見直しも必要になってくるでしょう。

※参考記事:鳥獣被害防止対策のための交付金について~鳥獣被害防止総合対策交付金

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