シカによる農作物被害額は、過去数年にわたって横這い傾向となっているものの、平成30年度では約54億円に達しており、依然として深刻な状況です。イノシシの被害額である47億円を上回っており、最も被害を与える野生鳥獣となっています。 なお、被害があっても申告がないケースもあるため、上記の被害額は実態よりも少ないとも言われています。

また、長期にわたるシカの生息数の増加及び生息域の拡大によって、森林の被害も深刻な状況です。全国の森林の約2割でシカによる被害が確認されており、被害面積は全国で年間約3500ヘクタール(平成30年度)に達しており、野生鳥獣による森林被害の約3/4がシカによるものです。
ここまでシカの被害が広がった要因のひとつとして、シカの高い繁殖力が挙げられます。シカは生育環境がよければ1歳から妊娠し、ほぼ毎年子供を生みます。1度に産むのは1頭ですが、繁殖期には少数のオスが多数のメスを囲う(一夫多妻)であり、オスのまわりの妊娠可能なメスはほとんど妊娠します。
その結果、年率約20%で個体数が増え、4~5年で個体数は倍増するともいわれています。 環境省による推定では、全国で約244万頭のシカが生息(平成29年度末。北海道を除く)、平成26年度以降減少傾向となっていますが、平成初頭が約50万頭だったのに比べると、依然として高い水準で推移しており、捕獲による個体数の削減がまだまだ必要であることが示されています。
環境省はシカの生息頭数を令和5年度までに約150万頭まで減らすことを目標としており、捕獲等による対策の推進が実施されています。
直近の全国シカ被害
多くの地域で、シカによる被害が増えて深刻化しており、各自治体でも対応に苦慮している状況です。奈良公園周辺
奈良公園(奈良市)は天然記念物のシカ約1300頭が生息しており、年間約1000万人が訪れる人気スポットです。しかしながら、今年は新型コロナウイルスによって観光客が減少し、シカが観光客から鹿せんべいをもらえなくなりました。
その結果、木の実などの餌を求め、シカが市街地や山林部に移動。商店の売り物が食べられたり、周辺の畑や花壇が荒らされるなどの被害が発生しています。
群馬県甘楽町
群馬県は関東地方では最大のりんご生産量を誇ります。甘楽町は豊かな自然を生かして化学農薬を抑えて、「陽光」や「ふじ」などの品種をはじめとした美味しいりんごが生産されています。
しかしながら、近年シカによるリンゴの食害が深刻化しており、今年は収穫が例年の3分の2程度に落ち込みそうな農家や、畑の約半分が被害に遭ったという生産者もいる状況です。
シカによる食害が広がるとともに、町内でのシカの捕獲頭数も右肩上がりとなっており、2015年度は31頭だったのが、本年度は11月4日時点で既に201頭に上っています。
静岡県伊豆半島
かつては、伊豆半島では国有林の中においてシカが保護されており、「鳥獣保護法」により、メスは捕獲禁止、オスは1日1頭と制限がかけられていました。
しかし、伊豆半島や富士山周辺でシカによる食害が深刻化。樹皮剥や下層植生の食害をはじめ、田畑にも被害が出ているため、本年度からメスジカを狙ってわなを集中的に仕掛け、繁殖を抑えるメスジカ重点捕獲を開始しています。
シカを捕獲するには?
シカの食害を根本的に減らすには、捕獲による個体数の削減が必要になります。具体的には、「くくり罠」「箱罠」「囲い罠」といった罠を使って捕獲を行います。 以下のページにて、それぞれの罠の特徴や動作について説明していますので、参照くださいませ。※罠の設置には基本的に、「わな猟免許」が必要になります。各種わな説明&販売ページ
よくある質問
Q:餌を使ってシカを誘引したいが、どうすれば良い?
A:代表的なのはアルファルファやヘイキューブ(アルファルファなどの乾草を固めたもの)を使った誘引です。草以外のものを使った誘引方法と比べると、他の動物を誘引する可能性が低いため、広く用いられています。
一方で、シカが食材として認識しない場合もあるので、誘引が弱いと見受けられる場合は、別の種類の誘引餌(トウモロコシや大麦、米ぬか、くず野菜など)を使います。 なおヘイキューブ以外の誘引餌の場合、イノシシ等他の動物を引き寄せる場合もあります。そのため、鉱塩や醤油を使って誘因する場合もあります。
また近隣において同じ作物を栽培しており食害が見られる場合は、同じ作物を誘引に用いると農作物に対しても獣が執着する可能性があるので、注意が必要です。
Q:捕獲したら、どのように対処したら良い?
A:いずれの罠においても、罠にかかった獲物は、捕獲対象獣であれば、絶命させなければなりません(止め刺し)。止め刺しには、銃、ナイフ、鉄パイプ、電気止め刺しなどを用います。
鉄パイプの場合、後頭部~首のあたりに強い打撃を与えます。ナイフの場合は、心臓や頸動脈などを狙って刺します。
シカはイノシシに比べると反撃をしてくる可能性が低く、基本的に人間から逃げようとしますが、至近距離ではオスの場合角で突き上げてきたり(特に発情期のオス)、足で蹴って暴れる場合もありますので十分な注意が必要です。
野生の力は思った以上に強いので、油断することなく、手に余りそうな場合は無理をせず、いざというときは熟練者にサポートを依頼できる状態にしておきましょう。
またくくり罠の場合、スネア(足を括る部分のワイヤーの輪)から足が抜けたり、勢いで足がちぎれてしまうことがあるので、なるべくシカが助走距離をとりずらい方向から近づき、支柱となる木にワイヤーが絡まる方向にシカが逃げるよう誘導して、シカが動けるエリアを狭めるように近づくと良いでしょう。
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