鳥インフルエンザや口蹄疫、豚熱(CSF)といった特定家畜伝染病は、生産者の皆様にとってはもちろん、報道等によって一般消費者にも広く認知されるようになりました。
これらの伝染病が発生すると、生産者は多大な経済的損失を受けるとともに、風評被害のリスクも生じます。特定家畜伝染病以外の病気においても、増体量や繁殖成績の低下などによる経営への影響は決して無視できるものではありません。
家畜の伝染病による被害をできる限り減らすために、私たちは何を知っておくべきなのでしょうか?家畜衛生分野の研究を行い防疫の専門家である、宮崎大学農学部獣医学科の末吉益雄教授にお話を伺いました。
末吉 益雄(すえよし ますお)教授 プロフィール
2012年4月、宮崎大学農学部獣医学科の教授に着任。家畜衛生分野の研究に長年携わり、同分野の第一人者として家畜伝染病のモニタリングや情報提供を通じて防疫の重要性を発信する。
教壇に立ち人材育成に携わるだけでなく、防疫へのリテラシー向上に取り組むべく、現場レベルでも精力的な活動を続けている。

病気になってから治療・対処するのではなく、その前の段階で予防する
今回は、当社リファクトリーの安田が聞き手となり、国内の伝染病の現状をはじめ、防疫のポイントや今後の防疫体制への提言などを対談形式でお伺いしました。
※本体談中は感染症対策のためマスク着用にて実施いたしました。撮影時のみマスクを外しております。◎末吉教授は長年防疫に関する研究に取り組まれてきたと伺いましたが、まずは現在取り組んでいる研究内容からお聞かせください。

末吉教授:私の研究は、動物を病気から衛ること、例えるならば人間の保健所の役割のように「定期健康診断」をベースに動物の健康保持に務めることです。広く認知されている高病原性鳥インフルエンザや豚熱などの家畜の悪性伝染病はまん延防止のため、そもそも治療対象となっておらず殺処分措置がとられますが、それ以外の動物の疾病についても病気になってから治療するのではなく、その前の段階で予防することで動物の健康を衛っていくことが究極の目的です。
具体的には、モニタリングを通じて、病気が起きる前の段階で「病原因子はないか」「防疫上の欠点はないか」といったことを数値化・見える化して発表・啓発していくことに取り組んでいます。悪性伝染病が発生してしまった場合は、まん延防止のために、申し訳ないけれども殺処分をしなければなりません。そうなる前の段階で、できる限り防疫をすることで、動物はもちろん生産者の方の生活を守ることに繋げていくのが、私の研究です。
ただ、防疫や予防という考え方は、治療に比べてなかなか周知していくことが難しい側面があります。例えば、新型コロナウイルスのワクチン接種に関する議論は、予防という考え方を伝える難しさがよく現れた事例ではないでしょうか。
ワクチンを打つことで重症化のリスクは下げることができますが、それは感染防止ではありません。しかし、ワクチンを打てば感染しないと間違って理解している方が少なくありません。 原則として、予防はその疾病が起きる前の措置です。なので、「予防したから発生しないのか、予防しなくても発生しなかったのではないか」と、されてしまいがちです。発生後のワクチンによる予防の成果も治療と違い、すぐには見えづらいため、直接的評価は難しいです。
◎たしかに、人間心理としてどうしても何かが起こってからでないと危機感が高まらない側面はありますね。
末吉教授:そうした意識をどう変えていくのかは、大切な部分だと考えています。
私は、生産者の方や防疫に携わる方にお話をさせていただく際に、そもそも、消毒と滅菌の違いをご存知ですか?という質問をさせていただきます。
滅菌とは、存在する微生物をすべて除去してしまうことを言います。一方の消毒は、微生物の数を減らし、感染症を引き起こさない水準にまで病原微生物を殺菌や減少させることを言います。
つまり消毒をしたからといって、すべての微生物が除去される訳ではないということです。このことが分かっていると「消毒マットを踏んだらもう大丈夫」という考え方ではなく、より本質的な防疫に取り組む気付きを与えることができます。
こういった部分を、データやエビデンスを使って丁寧に説明していくことも私の役目だと考えいます。積極的に情報を公開して、信頼関係を築くことで、防疫への意識を高めるきっかけにしてもらえればと思っています。
これからの時代は自分たちから積極的に防疫に取り組んでいく姿勢が大切
◎ここから、国内の家畜伝染病の動向についてお聞きしたいと思います。先日(2021年11月12日に対談)、秋田県で鳥インフルエンザが発生しましたが、日本国内での鳥インフルエンザの傾向について伺えますか。

末吉教授:日本の高病原性鳥インフルエンザのまん延は、人やトラックを介してのものはほとんど発生していません。この防疫力は世界でも抜きん出ています。
例えば、過去にオランダでは3,000万羽の鶏が処分されたことがありましたが、これはトラックなどを介してウイルスがまん延・拡散したことが大きな一つの要因です。
日本では高病原性鳥インフルエンザが発生した場合でも、各個撃破ができており「人」や「車」を介しての伝播防止の部分はしっかり対応が行き届いています。ただ、油断禁物です。これはしっかりしているからできているわけで、しなくても出ないのではないかと止めてしまうと、とんでもない事態となるリスクがあります。
さらに注意しておきたいのが、カモや野生動物からのウイルスの農場内/鶏舎内への持ち込みです。人や車を介してのまん延だけではく、侵入防護柵の設置やメンテナンス、環境整備に力を入れることで、ウイルスの持ち込みを防止していくことが大切となります。
例えば、カモが飛来する沼や池等の水辺が近い場合、そこを訪れるイタチやテン、タヌキやイノシシなどの野生動物がウイルスを養鶏場に持ち込む恐れがあります。こうした野生動物の侵入を防ぐことが、国内での鳥インフルエンザ対策では重要なポイントでしょう。
◎末吉教授がその他に懸念している伝染病はありますか?
末吉教授:国内では豚熱が依然として拡大しており、油断できない状況にあり、まだまだ対策やデータの分析を進めていく必要があります。
それから、アフリカ豚熱の状況は特に注視しています。ヨーロッパでは10年かけてまん延しましたが、アジアではわずか2年でほとんどの国に感染が拡大しました。
まだ国内での感染は確認されていませんが、動物検疫所ではウイルスの遺伝子や生きたウイルスが海外旅行客の手荷物から確認されています。いつ国内で感染が発生してもおかしくない状況です。
現在は新型コロナウイルスの影響でインバウンドが止まっていますが、今後海外渡航や入国規制が解除されればリスクが一気に高まるのではないかと懸念しています。もし感染が確認された場合、それが養豚場で早期発見できれば、封じ込めができますが、野生のイノシシで発生した場合は豚熱のように感染が広がる恐れがあります。
アフリカ豚熱は豚熱と比べて、致死率が非常に高いのが特徴です。確実に感染拡大しますが、厄介なのが、感染速度が遅いということ。一気に感染が拡大しない分、発見が遅れてしまう恐れがあります。その場合、気付かないうちに静かに感染が広がり、国内に定着してしまう可能性も考えられます。
それから、アフリカではダニがアフリカ豚熱を媒介している事例が報告されています。もし、感染ダニが定着すれば、風土病になる恐れも否定できません。そうなると、野生動物対策以上にコントロールが難しくなってしまうでしょう。
◎そうした海外からのリスクをしっかり認識して、対策や予防を講じておくことが重要となる訳ですね。
末吉教授:その通りです。情報をしっかりと集めて、意識付けをすることで自衛していかなければなりません。言われてからやるのではなく、自分たちから積極的に防疫に取り組んでいく姿勢が、これからは大切になってきます。
例えば、アイデアとして畜産業に従事する際に、防疫に関する知識を習得するライセンス制度を設けてみる、というのは一つの案です。自分の農場だけでなく、周囲の農場も守る意識や、環境汚染などの知識を身に付けることは、これからの農業が国際的な競争力を身に付ける上でも大切なポイントになっていくのではないでしょうか。
防疫は「やったつもり」「やってるつもり」という意識が一番危ない
◎防疫対策を実施する際に、意識するポイントなどはあるでしょうか?

末吉教授:まず、「やったつもり」「やってるつもり」という意識が一番危ないですね。
冒頭でも滅菌と消毒の違いについてお話しましたが、「消毒したから大丈夫」「消毒マットを敷いてるので安心」という意識はとても危険です。いつでも伝染病は侵入してくる可能性があることを、あらためて意識しておくことが大切です。
例えば、大規模な飼料工場の防疫体制を参考にしてみてはいかがでしょうか。こうした飼料工場は自分たちが感染の発生源や媒介となる可能性を排除するために、徹底した防疫体制を整えています。
具体的には、まず車両の消毒用にトンネルを設置しています。これは風の影響で消毒液が飛散してムラが出るのを防ぐためです。トンネルを通過するまでは5~10秒程度の時間を要するため、車両全体をしっかりと消毒することができます。また、通路はプール状の構造になっており、絶えず通過時にタイヤの消毒が可能です。アメリカなどでは、こうしたトンネル式の消毒に加えて、トラックごと乾燥させる工程を設けています。濡れた状態ではまだ病原微生物が生きている可能性があるため、万全を期すためのものです。
もちろん、規模の大小や状況によってどれだけの体制を整えられるかは違ってきます。トンネル式の体制をすべての農場に設置するのは現実的には難しいと言えます。ですが、消毒という工程を「どこまで信頼し、どこまで疑っているのか」、この意識の違いが防疫ではとても重要です。
例えば、一箇所しか消毒ゲートを設置していない農場でも、ゲート通過後に一度車両をバックしてもらい、もう一度消毒(二重消毒)してもらうといった対策を講じている場所もあります。こういった取り組みは、小規模の農場でも採用できるのではないでしょうか。
繰り返しになりますが、「やったつもり」が一番危ないということを、しっかり覚えておいていただきたいですね。
◎末吉教授のお話を伺っていると、防疫対策グッズや消毒液を販売する企業の責任も重要になってくるかと思います。こうした製造・販売に携わる企業に求められることはどこにあるでしょうか?
末吉教授: 製造メーカーの方々にお願いしたいのは、製造や販売だけでなく、その後のケアにも目を向けて欲しいと思っています。使い方や設置状況などをしっかりフォローしてあげることで、防疫効果をより高めることが可能です。
これは防疫の現場では課題として挙がるのですが、消毒ゲートや消毒マットを設置することが「パフォーマンス」になってはいけない。つまり、外向けのアピールだけで防疫効果が得られない状態では意味がない訳です。こうした意識を変化させる、防疫の重要性を啓発する活動にも、ぜひ積極的に取り組んでいただきたいですね。
また、これからの時代、環境へ配慮した製品の開発は避けては通れない部分だと感じています。消毒効果が高くても環境に悪影響を及ぼすような製品を、少しずつ減らして「環境に優しい」製品作りの取り組みも、企業にはお願いしたいですね。
防疫に取り組むことが自分達や地域を守るというメッセージを発信する
◎今後の防疫において大切になってくるのは、どのような点にあると思いますか?
末吉教授: 防疫がルーチン化している農場では、すでに疲弊している状態にあります。飼育管理基準は年々厳しくなり、絶えず伝染病を発生させてはいけないという緊張状態に置かれています。
そうした状態で「さらに消毒を徹底してください」「より意識を高めてください」、もし農場に落ち度があればというペナルティを科すようなメッセージだけでは、なかなか受け入れられないのが実情です。そうではなく、防疫に取り組むことが自分達や地域を守ること、生産性の向上にも繋がるという、ポジティブなメッセージを発信していくことが大切なのではないでしょうか。
その結果、自分たちで仕組化した防疫体制が構築できれば、より安全な体制が整っていくはずです。
◎農場以外の方の意識も大切になってきますね。
末吉教授: おっしゃる通りです。例えば、食中毒を引き起こすような人獣共通感染症への関心は一般の方々も関心を持っていらっしゃいますが、豚熱や国内では人への感染が発生していない高病原性鳥インフルエンザなどへの意識は、まだまだ低いのが現状です。
ポークやチキンは家庭の食卓には欠かせないテーブルミートとしてすっかり定着しています。もし爆発的な伝染病が発生すれば、こうした食材の価格が高騰してしまう。決して生産者だけの話ではない身近な問題であるということを、もっと発信していかなければなりません。
宮崎県では2010年に口蹄疫の流行により、29万7,808頭の家畜を殺処分するという大惨事を経験しました。あれから10年が経過し、世代交代が進んだことで当時の記憶が薄れてきています。私たちは、当事者として「語り部」のように経験とその教訓を伝えていかなければなりません。
あの地獄のような光景を、絶対にまた引き起こしてはいけない。そのためにも、防疫に関するリテラシーを高め、たしかな情報を発信していくことに、これからも取り組んでいきたいと思います。
◎本日はお忙しい中、貴重なお話を本当にありがとうございました。
家畜伝染病の防疫対策消毒ゲート Mgate1000Sのご紹介
宮崎における口蹄疫被害をきっかけに開発された商品です。車両のタイヤハウスの部分は伝染病を持ち込みやすい箇所であり、この部分をきちんと消毒するノズルを設置すること、消毒液が車両側部・底部をムラなく消毒できるように消毒液が扇状に噴霧されるようにすること、を念頭に開発されました。
防疫は「中に入れない・広げない・持ち出さない」という3つのポイントが重要ですが、出入口だけでなく、敷地内でとくにリスクが高そうな場所にピンポイントで設置することで、広げない・持ち出さないという部分の防疫効果を高めることができます。
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