【週刊】鳥獣被害対策 — イノシシ
電気柵の効果と電源の種類、ソーラー電源のメリットを解説
獣の田畑への侵入対策として電気柵は有効な手段の1つですが、電源の供給方法や特徴は商品によって異なります。 本記事では、電気柵の電源の種類やソーラータイプのメリットについてご紹介します。あわせて、電気柵を設置する際のポイントについても解説しています。 電気柵とは?3つの電源の種類 電気柵は、侵入を防止したい敷地の周りに電気を通した柵線を張っておき、獣の侵入を防ぐものです。獣が柵線に触れると、獣の体と電気柵のあいだに電気の経路が形成され、電気ショックが生じる仕組みになっています。電気ショックによって獣に恐怖心を植え付け、農作物に近付かせないようにすることが狙いです。 電気柵には電気を流すための電源が欠かせませんが、電源の種類は大きく3つ挙げられます。 1.乾電池 電源として多く使われているのが、乾電池です。 乾電池は誰でも手軽に入手することができ、導入が容易である点がメリットといえます。田畑の周辺には電源が確保されていることのほうが珍しいですが、乾電池タイプであれば場所を選びません。 デメリットとしては、残量をこまめにチェックして電池切れを起こさないようにする手間がかかることです。多くの機種では、電池の残量が少なくなると資格や音でアラートが出るようになっていますが、日々の作業に追われてついつい後回しにしてしまうことも。 24時間電気柵を稼働させる場合は電池交換の頻度も高くなるため、事前にメーカー公表の稼働時間をチェックしておき、コスト面を試算しておくとよいでしょう。 2.外部電源 2つ目は外部電源です。 自動車用のバッテリー等、電気柵本体の規格に適合する市販のバッテリーを接続したり、家庭用電源を接続するためのACアダプターを接続したりします。 電池の場合は設置場所を選びませんが、外部から電源を引っ張ってくるためには場所の制約が出てしまいます。田畑の周辺には電源が無いことが多いので、そもそも電源を確保できないということがあります。 購入前に、設置予定の場所に電源が届くか予め確認しておく必要があります。また、各メーカーが定める規格に適合しない電源を使うのは、重篤な事故が起こる可能性があるため避けましょう。 3.ソーラー 3つ目は、ソーラーパネルによって発電した電気をバッテリーに溜めて使うタイプです。仮にソーラーパネル無しのタイプをお使いの場合も、後付けできるものがほとんどです。 ソーラーパネルの出力(W=ワット)とバッテリー容量の兼ね合いによって稼働時間が変わってきます。それぞれのメーカーで推奨バッテリーが販売されているので、それを選んだほうが無難です。 コンパクトなタイプだと、5Wのソーラーパネルが一般的です。発電能力が低いため、夜間のみの電気柵を稼働させる場合に適しています。 一方で、昼夜連続の運転や、日照不足の季節、梅雨や降雪が多い時期に稼働させる場合は、電力不足に陥る心配があるため、5Wよりも大きいタイプを選ぶとよいでしょう。 12W程のソーラーパネルであれば比較的発電量が大きくなるので、昼夜連続の仕様でも問題ありません(※設置条件によっても異なります)。 メーカー推奨以外のバッテリーを使う場合は、ソーラーパネルの出力とバッテリーの容量の相性が悪い場合もあるので注意が必要です。 ソーラーパネルが選ばれる理由 電気柵の電源の中でもソーラーパネルが選ばれる理由はいくつか存在します。 まず、電池交換のコストが減る点は大きなメリットです。ソーラーパネル付きタイプのほうが本体価格が高いため、初期導入コストは電池タイプよりも大きくなってしまいますが、長い目でみるとソーラータイプのほうがお得になってきます。 また、電池交換忘れによって不通電となるリスクも減らすことができます。電気柵は動物に物理的なショックを与えるのではなく、心理的な恐怖を植え付け農作物に近付かせないことがポイントになると解説しました。しかし、電気柵に電気が流れていない状態で触れてしまうと、動物が慣れてしまい恐怖感を抱くなくなってしまいます。 電池交換が必要なタイプでは、電池切れにより電気が流れない空白の時間が発生してしまいますが、ソーラーパネルならその心配がありません。 また、ソーラーからの充電が十分でない場合も、電池やバッテリーと併用できるタイプなら自動で切り替えが行えるため、電気が流れない時間をゼロにすることができます。 イノホイで販売している電気柵はソーラー・乾電池・バッテリーの3種類にすべて対応しており、自動で電圧がもっとも高い電源に切り換えます。 ★おすすめ電気柵 イノホイおすすめの電気柵(本体)はこちら。 電気柵を設置するポイント ここからは、効果的に電気柵を設置するためのポイントを解説します。これをしっかり押さえておかないと、動物の侵入を許し効果が低減してしまいます。効果を最大限に引き出すためにも、ポイントを確認しておきましょう。 設置場所は通電状況がよい環境を選ぶ ソーラータイプを選ぶ場合、当然日光がしっかりと当たる場所を選ぶ必要があります。また地面に直置きすると日照不足や転倒・水没・故障が起こりやすくなるので、まず木杭などを打ち込み、そこに本体を浮かした状態で固定する必要があります。 他にも、通電部分に漏電が起こらないよう注意する必要があります。ガードレールやトタンといった導電性があるものに電線が触れていると、漏電が発生し電圧が下がってしまいます。また、草や木、石などが電線に触れてしまうことで漏電するケースもあります。電気柵を設置する場合は、漏電を起こす箇所がない場所を選び、定期的に木の剪定や草刈りなどメンテナンスを行いましょう。 獣が足を運ぶ範囲の地表は乾燥しにくい状態である必要があります。乾燥しきった地表であったり、コンクリートや石畳、アスファルト等の場合は、獣と電気柵のあいだに回路が形成されないため、電気ショックを与えることができません。どうしてもそのような場所に設置せざるを得ない場合は、トタン板など通電性の良いものを地面に敷くなどして対策をしておきましょう。 こちらの記事もどうぞ イノシシ対策に効果のある電気柵の設置方法 24時間通電させたほうが効果大 電気柵の本体は、24時間通電と、夜間だけ通電を切り替えられるタイプがほとんどです。コストを抑えるために夜間だけスイッチを入れる方も多いですが、可能であれば24時間通電させる方がよいでしょう。 鹿児島大学を中心とした「非通電状態の電気柵の放置はシカの通り抜けによる侵入を助長するか?」という研究では次のような研究が行われました。 まず、1)通電した電気柵、2)非通電状態の電気柵、3)再通電した電気柵(一度電気をオフにして再度電気を流した)の3つの電気柵を用意して、シカに対してそれぞれの「侵入阻止率」と「通り抜け率」を調べました。 電気柵の状態 侵入阻止率 通り抜け率 通電した電気柵 60% 25% 非通電状態の電気柵 11~25% 53~86% 再通電した電気柵 36% 56% この結果の中でも注目したいのが、「再通電した電気柵」の項目です。一度電気をオフにしてしまうと侵入阻止率が大きく下がり(60%→36%)、通り抜け率が大幅にアップ(25%→56%)してしています。これはシカが「この柵は危険ではない」と学習してしまったためで、再度通電しても学習効果が優先さることから、電気柵の効果が得られなくなります。 夜間だけの通電では、上記にように効果の軽減リスクが考えらえるため、可能ならば24時間通電することで、動物が電気柵に慣れてしまわないようにしましょう。 動物が潜む場所をなくす 電気柵を設置するのと合わせて取り組みたいのが、周辺環境の整備です。農作物を狙う動物は、周囲の雑草や藪に隠れて近付いてきます。こうした隠れ場所がある場所は狙われやすくなることから、雑草や藪は刈り取っておくようにしましょう。 これは、漏電を起こりにくくするという点からも、重要です。 イノシシ・シカでの電気柵の設置方法 電気柵を設置する場合は、対象動物に応じて電線の間隔や高さを調節すると効果が高まります。 イノシシは鼻が非常に敏感です。鼻以外の部分は毛でおおわれているため、電線の高さも鼻が触れることを想定して設置しましょう。 具体的には、地面から20cm間隔の2段張りで設置していきます。ポールの間隔の目安は20~40cmで、地形に合わせて調整をしてください。また、春の時期は子どものイノシシ(ウリボウ)が現れるため、電線の間隔をより狭くしておくとよいでしょう。 シカ向けの電気柵を設置する場合は、電線の間隔を狭くするために4段張りを採用します。シカはイノシシに比べ背が高いため、2段張りでは電線の隙間を通過されてしまいます。また、電線の間隔も30~40cmに設定し、ジャンプして飛び越えられないよう工夫しましょう。
箱罠で捕獲した後の止め刺しについて
箱罠を使って獲物を捕獲したあとは、獲物にとどめを刺す「止め刺し」を行います。 くくり罠で捕獲した場合、捕獲後もワイヤー長のぶんだけ獣は動けますが、箱罠の場合は獣の動きが檻の内部に制限されます。 また、くくり罠の場合は、捕らえた獲物の足が何らかの原因でワイヤーから抜けてしまう場合があります。一方で箱罠の場合は、捕獲後に獲物が逃げ出す可能性は低くなりますので、くくり罠よりも止め刺しの難易度は下がるといえるでしょう。 とはいえ、野生を相手に行うものですので箱罠でもリスクがまったくない訳ではありません。 とくに大型のイノシシなどは捕獲後は興奮状態にあり、体当たりして箱罠が動かしてしまうほどパワーがあります。 止め刺しを行う前に、遠巻きに罠の状態をよく観察し、箱罠に破損等の異常がないか確認したうえで、油断せず安全第一で作業にとりかかりましょう。 こちらの記事もどうぞ イノシシ捕獲~箱罠の設置・見回りをしよう 箱罠捕獲後の止め刺し手順 では、具体的に箱罠で捕獲した獲物の止め刺し方法を解説します。 1.刃物を用いて直接止め刺す 刃物を用いる止め刺しは、心臓や頸動脈をナイフなどで刺し放血させる方法です。 他の止め刺し方法と比べると制限が少ないので、古くからポピュラーな止め刺し方法として採用されています。ただし、急所に刃物を刺す必要があるため、物理的にも精神的にもハードルが高い方法でもあります。 難関となるのが急所部分となる胸元(心臓の付け根部分)を露出させることです。イノシシなどの四足獣は、胸元が地面側を向いており、そのままでは急所を的確に狙うことができません。そこで、獲物の胸元が見えるような状態にする必要があります。 一つの方法としては、ロープなどの保定具を使って獣の鼻や前足を垂直に吊り上げて拘束することです。 例としてイノシシを想定し、解説しましょう。 まず、保定具を輪の状態にします。このとき、保定具を引くと輪が締まるような結び方をしておきます(例:わな結びなど)。 上記の輪を箱罠天井のすき間から入れます。イノシシの鼻先で輪をプラプラさせると噛みついてきますので、その瞬間にロープを引いてイノシシの首や上アゴを括ります。 または、輪を地面に置き、輪の中に前足が入った瞬間に引き上げたりもします。 うまく輪を締めることができたら、持ち手側のロープに体重をかけて引っ張ります。 こうすることで、保定した部分が箱罠から離れられないようになります。なお、重量のある個体の場合は、近くの木の枝などに引っ掛けてから体重をかけると、持ち上がりやすくなります。 この状態になると獲物の前足が浮いて後ろ足だけで立ち上がるような体勢となるため、胸元が露出して急所を狙いやすくなります。この状態にして、リーチの長い槍状の刃物などで止め刺しするのがリスクの少ない方法です。 こちらの記事もどうぞ 万能山刀、フクロナガサ(叉鬼山刀)の魅力 サイズが小さいイノシシの場合は、保定具を使用せずに、箱罠の網目からイノシシが足を出した瞬間に手で捕まえて止め刺しする場合もありますが、噛みつきなどの恐れがあるので、慣れないうちはおすすめできません。 急所を突く際は、サッと一突きするようなイメージです。突いてすぐに刃を抜いて、様子をみてみて、血が流れ出てきたら成功です。うまく行けば、1分ほどで絶命させることができます。ただし、絶命が確認できるまでは不用意に近づかないようにしましょう。 2.電殺器(電気止め刺し)を使用する 電殺器とは、小型バッテリー等を用いて獲物に槍状の電極を接触させ、電気ショックで心停止させる方法です。刃物による止め刺しよりも難易度が下がるのと、血を見ないで済むことから、近年は多くの狩猟家が採用し現場でもよく見られるようになりました。 一方で、一歩間違えると作業者自身が感電してしまうので、扱いには細心の注意が必要です。 前提として、雨の日の使用は絶対に避けます。また通電時は、槍先を人に向けたり箱罠に接触させないよう注意します。 1)まず、電殺器を使用する際は、作業者自身が感電してしまうことを防ぐため、絶縁性のゴム手袋とゴム長靴を着用します(高圧絶縁タイプを選ぶとよいです)。また長袖・長ズボンを着用して肌の露出が極力少なくなるようにし、袖やズボンの裾はゴム手袋の中に入れておきます。 2)次に、箱罠の金属部分にアースを接続します。接続部分が腐食して錆びついていたり、ペンキで塗装させていると電気が通りづらくなりますので、箱罠を仕掛ける際に予めヤスリなどで研磨しておくと良いでしょう。 また、獲物に突き刺す槍についても、槍先に泥や血による汚れがないか、錆びついていないか確認しておきましょう。 3)イノシシが暴れた衝撃で電殺器の棒や針が折れてしまうもあるため、注意が必要です。 獲物が動いて狙いを定めにくい場合は、槍を突き刺す前に、箱罠の中で獲物が動き回らないよう鉄パイプや木材などを網目から差し込んで可動域を制限してゆき、入り口側に誘導します。 獣の動きが抑制できない場合は、保定具を使って獣をあらかじめ拘束するのも良いでしょう。 また、電殺器を使用する前に、箱罠が接している地面やイノシシに水をかけておくと電気が通りやすくなります。 4)電殺器の電源を入れ、狙いを定めて槍を突き刺します。獲物を失神させるなら、イノシシなら首筋を狙い、シカなら頭部を狙います。感電死させる場合は、できるだけ心臓に近い部分に狙いを定めましょう。 このとき、自分の体が箱罠に接触すると感電する危険があるため十分に注意してください。 また、電流が流れている状態で、電極の槍の部分が鉄骨に触れるとショートが起こるため、十分注意しましょう。 5)止め刺し後は、獲物が感電して完全に絶命したか確認しましょう。ショック状態で失神しているだけの場合、獲物が覚醒して暴れ出し事故に繋がります。絶命したかを確認するには、 イノシシが目を閉じた、瞳孔が開いた 硬直から解けて、全身の力が抜けた 呼吸する動きが止まった といった項目を確認してください。上記が確認できても蘇生する可能性がゼロではないので、最後に刃物で止め刺ししておくほうが確実です。 3.銃による止め刺し 銃による止め刺しは、獣による反撃を最も受けにくい方法です。しかし、銃そのものが危険な道具であることに代わりはありません。 作業時は細心の注意を払い、安全に配慮することが大切です。 具体的には、箱罠のフレームに弾が当たり跳弾する危険性があります。銃を発射する場合は、銃口を箱罠のフレームに置いて発射するようにすると、照準を安定させやすくなります。 また、流れ弾による事故を防ぐため、銃口の先に民家や人がいないか必ず確認します。バックストップ(弾が範囲を越えて行かない為の遮蔽物)もきちんと確保しておきましょう。 同行者がいる場合は、銃所持者の後方に位置を取り、可能であれば木の後ろに隠れるなどして安全を確保してください。 また、罠にかかった獣を銃で止め刺しする場合は、下記の条件を満たしている必要があります。 罠にかかった鳥獣の動きを確実に固定できない場合であること 罠にかかった鳥獣が獰猛で、捕獲等をする者の生命・身体に危害を及ぼす恐れがあること 罠を仕掛けた狩猟者等の同意にもとづき行われること 銃器の使用にあたっての安全性が確保されていること 狩猟者登録を受けていること 有害鳥獣駆除等である場合は、銃器による捕獲許可や認定を受けていること 止め刺しする場所が特定猟具使用禁止区域(銃禁エリア)に該当していないかも、できれば自治体の担当課に事前に確認しておくほうがよいでしょう。 銃で狙いを定める場合は、シカの場合は頭部か首、心臓を、イノシシの場合は、こめかみ(耳のうしろ)か心臓を狙います。食肉活用を想定している場合は、腹部を狙うと弾の破片が内蔵に食い込み、活用できる部分が限られてしまいますので、注意しましょう。 4.窒息させる 小型の獲物を箱罠で捕獲した場合、窒息させて止め刺しをする方法も用いられます。具体的には、ガスを使う または 箱罠ごと水没させる、といった方法が挙げられます。 また、特定外来生物にあたるアライグマやヌートリアといった小型の獣は運搬が禁止されており、捕獲した場所で止め刺ししなければなりません。外来生物法による防除の場合は、捕獲した個体にできるだけ苦痛を与えないことが義務づけられているため、罠を設置したあとは頻繁に見回りを行い、捕獲後は適切な方法で処分します。 ガスを使って窒息させる ガスを使って窒息させる場合、箱罠を密閉された容器に入れ、炭酸ガスを注入します。そのまま10分程度放置し窒息させます。炭酸ガスは専用のボンベから注入するのが一般的です。 大型の箱罠を使用する場合は、容器のサイズやガスの準備などが大掛かりなるため不向きですが、小型のサイズの箱罠では有効な方法といえます。 箱罠ごと水没させる 小型の獲物を捕獲した場合は、箱罠ごと水没させて獲物を窒息死させる方法もあります。水深の確保できる川などに箱罠ごと沈め、流されないように固定します。10分程度そのままにして、窒息するのを待ちましょう。 水深が浅く息継ぎができるような状態だと、なんとか呼吸しようとするため、かえって獲物を苦しませることになります。しっかり水深が確保できる場所を選び、なるべく苦しまないように配慮したいところです。
対馬市におけるイノシシ・シカ対策のご紹介
長崎県対馬市は日本海の西に位置する島です。九州と韓国の間の対馬海峡に浮かび、「国境の島」とも呼ばれています。博多港までは航路で132キロ、韓国までは直線距離で49.5キロ。日本の中で朝鮮半島に最も近いという地理的条件から、大陸と日本の架け橋として数多くの文化・歴史が息づいています。 1.豊かな自然が残る対馬。島の89%が山林で占められている 特産品も多く、海鮮やしいたけ・地酒などをはじめ、縄文後期の原種そば「対州そば」など多くのグルメを味わうことができます。 また近年では、世界的に話題となった時代劇アクションゲーム「Ghost of Tsushima」(ゴーストオブツシマ)の舞台としても注目を集めました。 島の大きさは、南北82キロ・東西18キロ、面積は約708平方キロ。沖縄本島と北方四島を除けば、佐渡島・奄美大島に次ぐ大きさです。 山林が面積の89%を占める自然豊かな島ですが、一方でイノシシやシカによる農作物被害や林業被害、山の下草が無くなるといった生態系被害に悩まされています。 こうした被害を受け対馬市では、イノシシ・シカに対する対策を実施すると共に、イノシシ・シカに負けない地域づくり・人づくりに向けてさまざまな取り組みをしています。 今回は、対馬市役所 農林水産部の日高様に、対馬市におけるイノシシ・シカ対策についてお話を伺いましたので、ご紹介します(以下敬称略)。 対馬市でのイノシシ・シカ被害の現状 2.イノシシやシカが多く生息し農作物・森林被害が発生している -まずは、対馬でのイノシシ・シカ被害の現状からお聞かせください 日高:対馬市では現在、イノシシ・シカの増加により、食い荒らしや踏み倒しによる農作物被害、樹脂剥ぎによる森林被害、さらには下層植生減少や土砂流出によって生態系にも被害が及んでいるのが現状です。近年ではイノシシやシカが市街地付近でも出没しており、接触事故なども発生しています。 3.「猪鹿追詰(ちょろくおいつめ)」対馬市公式HPより 対馬は今から約300年前に、イノシシによる農業被害に悩む百姓を助けるため、対馬藩で農業振興に尽力した陶山訥庵(すやま とつあん)が中心となって「猪鹿追詰(ちょろくおいつめ)」が実施され、9年間の歳月をかけてイノシシを絶滅させたという歴史があります。 しかし、今から30年ほどまえに島外から持ち込まれたイノシシが野生化し、平成6年に一頭の成獣が捕獲されたことを皮切りに、被害が全島に及ぶようになりました。 シカによる被害も顕著になってきています。対馬に生息するシカは、対馬にのみ生息するキュシュウジカの亜種です。1960年代は、捕獲圧の上昇により個体数が減少したことを受け、県の天然記念物に指定され、一切の捕獲が禁止されました。しかしながら、その後個体数が増加し、農林業被害が発生するようになったため、1981年から有害捕獲が開始され、2006年に天然記念物指定が解除されるに至っています。 イノシシ・シカ被害への対策や捕獲の状況 -イノシシ・シカ被害への対策や捕獲の状況はいかがでしょうか? 日高:被害の拡大を受けて市では他の有害鳥獣捕獲地域と同様、被害を引き起こすイノシシやシカを捕獲した際には報奨金を交付する制度を導入しました。その効果もあり、2019年度の捕獲実績はシカが約8,236頭、イノシシは約5,367頭という結果になりました。1か月に最大1,000頭捕獲したという実績もあります。 しかし、依然として被害は減少しておらず、捕獲のペースが追いついていなのが現状です。とくに森林被害は深刻です。田畑への農作物被害に対しては防護柵やワイヤーメッシュを用いることで被害額が減少傾向にありますが、森林被害はカバーするエリアも広く、より捕獲圧を上げていかなければなりません。 森林被害の削減に向けての新しい対策 -被害を削減するために、今後を見据え新しい対策へ取り組んでいるとお伺いしました 日高:対馬市では全国に先駆け、主に森林被害を低減させるための補助事業として、シカ捕獲用のくくり罠を助成する事業を開始しました。 4.対馬市で導入するくくり罠 現在、捕獲方法の内訳としては、銃器を使った捕獲が約3割、罠を使った捕獲が約7割になっています。銃器による捕獲はどうしても許可・規制等の問題があることから限定的となり、猟友会の方へのご負担も大きくなってしまいます。そこで、ハードルが低い罠を使用することでも十分な捕獲実績を出せることに注目し、シカ捕獲用のくくり罠1,500個を助成することにしました。 5.猟友会の協力の元、助成用の罠を念入りにチェックする 具体的には、この冬期、対馬市有害鳥獣被害対策強化月間を設定し、シカを捕獲した方に対して、くくり罠を提供します。 これまで罠を仕掛ける機会がなかった方や、くくり罠を使用してこなかった方にも、事業を通して「きっかけ」を作ることができれば、島全体で広く対策に協力していただくことができます。 いままで捕獲実績が少なかった方も、この取り組みによって数を増やしていければ、捕獲圧を高めていくことができます。 -地域や猟友会と連携して取り組む訳ですね 日高:はい。くくり罠の配布には猟友会の方が事業主体となってご協力いただきます。地域と猟友会が協力して取り組む体制を築くことで、捕獲圧を上げて被害を削減していくことが狙いです。 まとめ 対馬市では島おこしの一環として、捕獲したイノシシやシカの「皮」を使ったレザークラフト製品の開発にも取り組んでいます。鳥獣対策に取り組みつつ、島おこしにも役立てることが狙いです。 6.捕獲したイノシシやシカの皮を使ったレザークラフトで島おこし 鳥獣対策には、行政や猟友会、地域住民が一体となって協力して取り組むことが大切です。対馬市が新たに取り組むくくり罠の提供事業も、地域一体でイノシシやシカの被害をくい止めるための対策といえます。 7.ジビエ肉として有効活用。ふるさと納税でも販売している 全国でも先駆けとなるこの取り組みは、鳥獣被害に悩む他の自治体にとっても今後の鳥獣被害対策を検討する上で、貴重な参考材料となるのではないでしょうか。
箱罠のセンサー(電子トリガー)をお探しの方へ
イノシシやシカの捕獲に広く用いられている箱罠。物理的な仕組みで作動させるものが一般的ですが、近年はセンサーを使った捕獲の仕組みが注目をあびており、多くの地域で導入されるようになってきています。 すでに各社から様々なタイプが販売されていますが、従来の箱罠に慣れている人にとっては、とっつきにくく感じるかもしれません。しかしながら、うまく使えば捕獲率の向上や作業効率を良くすることが可能です。 ※箱罠の傍に設置しておき罠の様子を録画する、「トレイルカメラ」とは今回は区別して説明します。 箱罠+センサーを使った捕獲 箱罠は餌を使って獣を檻の内部に誘引し、獣が檻の中に入ったら仕組みが作動して扉が落ちる仕組みになっています。 こちらの記事もどうぞ 箱罠について詳しく知りたい 一般的な箱罠は、罠の内部にある仕掛け(蹴り糸や踏み板など)に獣が触れると扉が落ちるといった、物理的な仕組みになっています。 たとえば、蹴り糸を使った方式の場合、箱罠内部に張った糸に獣が触れると、扉を吊っているワイヤーや紐が外れて扉が閉まる仕組みになっています。 一方で、センサーをつかった仕掛けの場合、獣が罠の内部に入ったことを赤外線などのセンサーによって感知します。蹴り糸などを用意する必要がなく、またそれが無いことで獣の警戒心を弱めることが可能になります。さらに、仕掛けの労力を減らすことにもつながります。 センサーによって扉が自動で落ちる仕組み この仕組みには、主に赤外線センサーが用いられます。センサー筐体と扉を吊る紐が連結できるようになっており、センサー筐体を箱罠の上面や側面に取り付ける形で仕掛けるのが一般的です。 因みに赤外線とは、熱をもっている物体や生き物が発している電磁波の一種です。これを肉眼で見ることはできませんが、赤外線センサーの内部は入射した赤外線を電気信号に変えるような仕組みとなっています。この仕組みは、人感センサーなど各種センサーとして幅広く用いられています。 これを箱罠の仕掛けに応用し、周囲温度と比べて温度差のあるものがセンサー感知範囲内で動くと、センサーがこれを感知して、扉を吊る紐がセンサー筐体から外れることにより、扉が自動で落ちる仕組みになっています。 IoTを活用した応用例も 最近では、センサー+IoTを組み合わせて捕獲に役立てる試みも進んでいます。IoTとは、今までインターネットにつながっていなかったモノをインターネットにつなぐことです。 例えば、獣が罠の内部に入ったことを赤外線センサーが感知、そのタイミングでカメラ撮影を開始。カメラで撮影された映像を、インターネット経由でパソコンやスマートフォンなどによって遠隔で確認するといったことが可能になります。 さらに、遠隔で人が監視する労力を省くために、獣の種類や頭数を画像で自動判別して、狙った獲物だけを自動で捕獲できるようにするための試みも行われています。 また、赤外線センサーが感知したタイミングで、自動でメール通知を携帯電話等に配信したり、GPSと連携して捕獲場所をマッピングすることによって生息密度が高い場所を割り出したりする応用例もあります。 ただし、高度な機能を有するほどシステムの導入に費用や労力がかかる点、必要に応じてネットワーク接続のためのSIMカード等を別途用意しなければならなかったり、回線電波が届かないような中山間地においては導入が難しいといった側面もあります。 イノホイおすすめのセンサー箱罠 上記を踏まえ、これからセンサー+箱罠による箱罠を導入してみたいという方には、IoTを活用するタイプではなく、赤外線センサーで自動で扉が閉まるタイプを当店ではおすすめしています。 こちらの商品は、ベテラン猟師が監修したセンサーで、設定方法がシンプルかつ実績が多いセンサー商品になります。もちろん、当店のファーレ旭式箱罠にも対応します。 当店のイノシシ・シカ用箱罠は蹴り糸方式ですが、蹴り糸のセッティングは意外に奥が深く、警戒心の高い成獣だと捕獲が難しいことがあります。獣との駆け引きが重要になるため、 熟練者の場合は、ターゲット個体に合わせて蹴り糸の素材や張り方を調整することで対応しますが、初心者の場合はなかなか難しいかと思います。 そういった場合、上記のセンサーをおすすめしており、導入によって捕獲率が上がったという報告もいただいています(参考事例)。 一番の特徴は、あらかじめセンサーが反応する高さを設定できる点です。 例えば、当店の箱罠ビッグサイズ片扉(高さ1.0メートル)と組み合わせて使う場合、天井からの距離60cmの位置でセンサーが反応するように予め設定しておけば、高さ40cm未満の場合は反応せず、40cm以上の肩高の獣が入った時だけ、扉が閉まります。 そのため、体の大きな成獣が入ったときのみ扉を落とすよう設定することが可能、またタヌキなど他の小さい動物を捕獲してしまうことを防ぐこともできます。 被害を減らすには成獣の捕獲を イノシシの場合、環境や栄養状態にもよりますが、年間で平均4頭前後の子どもを産むといわれています。成獣を捕獲しなければ、ネズミ算式に個体数が増えていくため、被害を減らすことができません。 また、幼獣だけを捕獲すると、その様子を見た成獣が学習し、警戒して罠の内部に入らないようになる可能性もあります。 文明の利器を使って、被害に立ち向かうのも一つの手だと思います(アニマルセンサー商品ページはこちら)。 ※上記センサー商品は補助金の対象になる場合もあります。詳細は自治体の担当課にお問合せください。見積りのご依頼は、電話・FAX・お問合せフォームからどうぞ。
【手順で解説】くくり罠によるイノシシ捕獲から生け捕りまで
イノシシやシカをはじめとした野生獣の捕獲方法の1つである「くくり罠」。獣が罠を踏むと、ワイヤーが締まって脚を捕獲する方法です。 中でもイノシシは身体能力が高いため、罠の設置や捕獲後の対応の際に、押さえておきたいポイントがあります。捕獲率を高めるだけでなく、より安全にイノシシを仕留めるためのポイントを順を追ってご紹介します。 イノシシ用のくくり罠を設置する くくり罠の設置は、イノシシとの知恵比べといえます。 イノシシは環境の変化に敏感で、新しく掘り起こされた土や人間の痕跡があると、警戒してそこを避ける行動をとります。罠を設置した痕跡を残さないよう、慎重かつ狡猾に罠を設置することが大切です。 まず、罠を設置する場所を決めましょう。イノシシが行動しているであろうエリアを丁寧に観察し、イノシシのフンや足跡、獣道を探します。足跡や獣道をみつけたら、より具体的に罠を設置する場所を絞り込みましょう。 イノシシは足元が不安定な場所を避けるため、枝や石はよけて通る習性があります。獣道の途中に木の根っこなどがあれば、そこを跨いで足を降ろす可能性が高くなります。 また、段差がある場所なら、イノシシも踏ん張りやすい安定した部分に足を置こうとするでしょう。こうした場所はくくり罠を仕掛けるには絶好のポイントです。 このように、痕跡を追うだけでなく、さらに一歩踏み込んで、そこから読み取れるイノシシの行動まで予測することで罠の捕獲率を高めていきます。 こちらの記事もどうぞ 【徹底解説】くくり罠の特徴や成果の上げ方とは? 匂い対策やカモフラージュは念入りに くくり罠を設置する際は、匂い対策にも注意をはらいましょう。罠を設置するために掘り返した土は、表面の乾いた土と匂いに違いあります。イノシシの嗅覚は鋭敏で、わずかな匂いの変化にも気づきます。 掘り起こした土で余りが出たら、罠から少し離れた場所に置くようにしましょう。 これ以外にも、新品の罠は人工物の匂いがするため、一度雨にさらして匂いを落としておくテクニックもあります。 同じく作業に使う軍手などもビニール製やゴム製は匂いが残るため避ける人もいます。徹底して人の匂いの痕跡を残さないため、猟に使う作業着は洗わず1シーズン使うといった罠師もいるほどです。人間に慣れていないイノシシの場合は特に匂いに対する警戒心が高いことから、罠の性能を損なわない範囲で可能な限り対策をしておくとよいでしょう。 また、くくり罠を設置したら表面に土や枯れ葉などを使ってカモフラージュを行います。周囲の環境と同じようにすることで、イノシシに見破られないよう工夫することが大切です。ハケなどを持参しておくと、より自然で細かなカモフラージュができます。 罠の手前や両サイドに枯れ枝を置いて、イノシシが足を置く位置を限定し捕獲率を高める方法も効果的です。 一方で、昼間に人里に現れるような人間に慣れているイノシシの場合、人間の痕跡を避けないケースもあります。わざと足跡を手で消してみて、そのあと同じ場所に足跡があれば、イノシシがその場所を踏む可能性が非常に高くなります。 イノシシがくくり罠にかかっていたら 見回りの際、くくり罠にイノシシがかかっていたら、その後の対処が必要になります。罠にかかったイノシシは、なんとか逃れようと必死に暴れ、興奮していてとても危険です。 まずは遠巻きに状況を確認し、斜面の場合はイノシシよりも高い方向から近づきます。近付く際はゆっくりと、警戒心を緩めずに進みましょう。捕らえたイノシシの可動域の外から、くくり罠がが足にしっかり固定されているか確認します。 罠のかかりが甘い場合や、イノシシが激しく暴れまわると罠が外れる可能性があります。状況をしっかり把握して、作業の安全を確保しましょう。 こちらの記事もどうぞ 捕獲獣(イノシシ・シカ等)の止めさしについて 生け捕りにするのでなければ、くくり罠にかかったイノシシはその場で止め刺しします。 その場合、鈍器等による殴打や電気ショック、ナイフを使います。必要に応じて銃で止め刺しする場合もあります。接近戦が危険と判断した場合は、応援を呼んだり銃による対処ができるよう事前に段取りしておきましょう。 こちらの記事もどうぞ 万能山刀、フクロナガサ(叉鬼山刀)の魅力 保定具(鼻くくりなど)を使う場合 捕獲したイノシシの肉をおいしくいただく目的で、別の場所で止め刺しから加工まで実施するのであれば、生け捕りにする必要があります。その場合、イノシシをできるだけ傷つけることなく体の自由を奪う必要があります。 イノシシの武器は、突進。さらにオスの場合はそこから牙を突き上げてきたりします(しゃくりあげ)。何もなしに近づくと、足を払われたり刺し傷を負わせられたりします。 足くくり罠によってイノシシの動きが制限されていても、軽い気持ちで近づくのは非常に危険です。 大きな成獣の場合は、保定具を使ってイノシシの動きを封じる必要が出てきます。保定具のなかでも最近人気があるのが「鼻くくり」です。 鼻くくりの原理はくくり罠とほぼ同じです。延長棒の先に仕掛け部分があり、イノシシの鼻がそこにぶつかるとイノシシの鼻がワイヤーでくくられるような仕組みになっています。 まずは捕獲したイノシシの可動域を確認し、可動域の外から鼻くくりを先導させ、イノシシと対峙するような形でじりじり近づきます(斜面の場合は、低いほうから近づかないよう注意しましょう)。くくり罠の空ハジキと同様、鼻がぶつかっても保定失敗となる場合もあるので、細心の注意が必要です。 他のタイプでは、先端がワイヤーの輪っかになっており、イノシシが噛みついたタイミングでワイヤーを締める仕組みになっているものもあります。イノシシの鼻イノシシが噛みつこうとした際にロープが締まって鼻を縛るタイプもあります。 鼻くくりがかかったら、ロープを引っ張り周囲の木に固定します。足くくり罠と鼻くくりがそれぞれ逆方向に引っ張られることで、イノシシが自由に動けない状態を作ります。 ロープがたわまないよう体重をかけてしっかり張り、イノシシの動きを封じ込めるようにしましょう。ロープを固定する木も、簡単には折れないものを選ぶようにします。 イノシシを横に倒して足を縛る 鼻くくりに注意をとられたイノシシの後ろから近づき、くくり罠がかかっていない足を下からすくうようにして、イノシシを横倒しの状態にします。 それほど大きくない成獣の場合は、横に倒れたイノシシの足の付け根を片膝で押さえ込むようにして体重かけると、動きを抑制できスムーズにロープを結ぶことができます。ロープを使ってしっかりと4足を縛りましょう。 サイズが大きい場合はまず2足をしばり、残りの足を引き寄せるようにして縛っていきます。 この状態になったら、イノシシの口を塞ぐようにロープなどで縛ります。この際、噛みつきに十分注意しながら作業を行います。 ガムテープを使って視界をふさぐ イノシシの自由を封じて、動けないことが確認できたらガムテープで目隠しをします。これは罠猟で有名な片桐邦雄さんが実施するテクニックで、ガムテープで目隠しされたイノシシは動きが大人しくなり、暴れることが少なくなります。 くくり罠と保定具でほとんど動けなくなったイノシシに、素早く目が隠れるようにぐるぐるとガムテープを巻いていきます。背中側からまたがるようにして乗っかってやると作業がしやすくなります。隙間を作らないようして、イノシシの目に光が届かないようにしましょう。 最後まで気を抜かず安全対策を徹底する しっかりイノシシが固定され身動きが取れないからといって油断しないようにしましょう。命の危機を感じたイノシシが暴れ出さないとも限りません。 また、イノシシの動きで消耗したワイヤーが切れる場合や、足を切断して動き出すケースもあります。殴打や電気ショックのようにイノシシに近付く必要があるケースでは、気を抜かずに対処しましょう。
イノシシ対策~防除・駆除の基本~
近年、都市部においても身近な害獣として認知が広がってきているイノシシ。被害が深刻になる前に防除や駆除を中心とした対策が必要となりますが、具体的にどのような手順で進めていけばよいのでしょうか? 今回はイノシシ対策に着手するにあたって重要となるポイントや、具体的な防除・駆除方法について解説します。 イノシシ対策の事前知識~イノシシによる被害の現状~ 農林水産省が調査したデータによると、野生鳥獣による農作物への被害金額は年間で約158億円に達しています(平成30年度)。 自治体が主体となった本格的な野生鳥獣への対策が効果を見せ、年々この数字は減少傾向にありますが被害規模はまだまだ甚大で、継続的な対策が重要となっています。 イノシシによる農作物の被害は年間約47億円 中でもイノシシによる農作物への被害は深刻です。年間での被害額は約47億円。これはシカの約54億円に次いで大きい被害額で、全体の3割以上を占めています。 出典:農林水産省ホームページ 丹精込めて作った作物を収穫前に一夜にして駄目にされ、営農意欲を無くすほどの重篤なケースも少なくありません。 イノシシ対策商品ページはこちら>>。 イノシシ対策の基本となる3つのポイント イノシシ被害に対する施策は、「防除」と「駆除」に大別されます。 防除とは、被害を防いで取り除くこと。駆除とは、害になるものを追い払う、または捕殺して取り除くことをいいます。イノシシへの対策には、この2つを両立して進めていくことが大切です。 では、具体的に防除・駆除の基本となる3つのポイントを見ていきましょう。 1.体制の整備 1つ目は、体制の整備です。 体制の整備とは、イノシシ被害を自分たちの問題と考えることができるメンバーを増やすことをいいます。獣害対策は1人で取り組むより、グループで取り組むことでより効果を発揮します。個別の対策では、イノシシが移動して被害が分散するリスクも考えれることから、できる限り対策に取り組む「仲間」を増やしていきましょう。 まずは少人数でもグループを作り、それを広げていくことで地域ぐるみでの対策が可能になってきます。 2.環境の整備 2つ目は、環境の整備です。 環境の整備は、イノシシを引き寄せないための環境改善のこと。具体的には、害獣への餌付けを防止することが大切です。獣は餌をもとめて人里に寄って来ます。意図しなくても、獣が集落で餌にありつけるような環境になっていると、被害に繋がりやすくなるでしょう。 まずは、知らないうちに獣にエサをドンドンと与えてしまっている環境を無くすことが重要です。 例えば、 稲刈り後のヒコバエ(2番穂)や農作物の残渣、残飯等が放置されている 放任果樹(収穫されない栗や柿など)がある ・お墓にいつまでも供え物が置いてある 管理されない耕作放棄地が多い(餌となる作物があったり、獣が安心して身を隠しながら人里に接近できる環境がある) といった例が挙げられます。 ほかにも、市場に出荷できない作物をそのまま放置しておくと、イノシシの餌となってしまいます。一度イノシシが作物の味を覚えてしまうと、そこを餌場として認識してしまう可能性があります。 「ここには美味しい食べ物がある」とイノシシに覚えさせないためにも、餌となりうるものはできる限り除けておくことが大切です。 餌の排除だけでなく、イノシシが住みやすい環境を作らないことも大切です。特に、耕作をやめて荒れた土地はイノシシが隠れたり住みついたりやすい環境ですので、そういった土地の草は綺麗に刈っておきましょう。 3.防除・駆除 3つ目は防除・駆除です。 イノシシ対策となると、多くの方が真っ先に思いつくのはこの防除・駆除ではないでしょうか。防除施策としては、柵の整備等によってイノシシを寄せ付けないようにすることが一般的です。また駆除は、有害駆除・狩猟等をつうじて実施することになります。 ★参考記事:獣害の種類と対策について イノシシ対策(防除・駆除)の具体的な方法 実際のイノシシの防除・駆除方法は、上記1から3の順に段階を踏んで実施していくと効果的です。上記の1と2は、労力や時間などお金以外のコストが大半ですが、3の実施になると機材の費用や申請・免許なども必要になってきます。ここからは、3「防除・駆除」の具体的な方法について説明します。 1.電気柵 防除策として最も一般的なのが防護柵で、イノシシによる被害を水際で食い止める最終防衛ラインです。なかでも近年、イノシシ対策として広く採用されているのが電気柵です。 電気柵の構造と目的 イノシシ対策用の電気柵は電線、支柱、碍子やクリップ、電源、アース等から構成され、構造上はそれほど頑丈とはいえません。 頑丈な柵によって物理的に防除するというよりは、イノシシが電気ショックに驚き、電気柵に触れる恐怖を学習することによって、柵に近づかないようにすることを目的とします。ワイヤーメッシュやフェンスなどの物理的な防護柵とは異なり、電気柵は電気ショックのトラウマによる心理的な防護として機能させるわけです。 電気柵の設置方法 まず支柱を3~4メートル間隔に立て、電線を張ります。電線の素材として、最も一般的に使用されるのがポリワイヤータイプです。柔らかいポリエチレンと金属線が編み込まれた構造で、この金属線に流れる電気に獣が触れるとショックを受ける仕組みです。 イノシシ用電気柵の場合、電線を2~3段張りにするのが基本です。電線の高さや間隔は対象獣で異なりますが、イノシシの場合は鼻先に当たりやすいように工夫することが重要です。 イノシシは鼻を使ってものを探るため、ちょうどその位置にあたるよう、最下段の電線を地面から15~20cmの高さにします。毛皮の外側から電気ショックを与えてもイノシシはショックを感じませんので、敏感な鼻に電線を接触させるようイメージしながら調整しましょう。 また、その上に20~30cm間隔で1~2本電線を張り、最上線を40~60cm程度とします。※春はイノシシの子(ウリボウ)が出るので、1段目の電気柵ワイヤーは低めに設定することをお勧めします。 電線と支柱、電源を組立・接続し、さらに必要に応じて地中にアースをとります。 乾燥した土壌はアース不良となりますので、アースは湿った場所を選び、土中になるべく深く埋めると良いでしょう。また、設置完了後は24時間通電を基本とし、できるだけ無通電の時間が生じないようにしましょう。 注意点 繰り返しになりますが、電気柵は構造としては強くありませんので、電気ショックが効果的に働かず、イノシシが鼻でフェンスを持ち上げたり、掘り起こしたりして侵入を許してしまうケースも多くあります。 また、電気ショックを受けたイノシシが驚いて柵に向かって走り出し、結果として侵入を許すだけでなく電気柵も壊されてしまったという事例もあります。 イノシシ以外の意図しない感電リスクを避けるためにも、設置して終わりではなく、整備をしっかりすることが重要です。 ※電気柵以外の防護柵については、こちらの記事を参照ください。 2.駆除 増えすぎた害獣は駆除することも必要です。駆除することによって、被害は目に見えて低減します。 駆除の方法としては、イノシシの場合、くくり罠・箱罠・囲い罠等によって捕獲・駆除するケースがほとんどです。 なお、罠を使って野生鳥獣を捕獲する場合は、わな猟免許の取得が必要です。 ★参考記事:害獣捕獲のための第一歩 ~必要な免許・許可について 箱罠とくくり罠の違い イノシシを駆除するために使用する罠として代表的なのが、箱罠とくくり罠です。 箱罠とは、檻などで作られた箱型の罠で、獲物が入ってトリガーが作動すると、出入口が閉まって獲物を閉じ込め仕組みになっています。なお、天井面の半分以上が開口しているものは箱罠ではなく囲い罠として扱われます。 くくり罠とは、イノシシやシカなどの獣が設置場所を踏み込むと、押しバネの力によって罠が作動し捕獲する仕組みをいいます。 箱罠、くくり罠ついては、以下の記事でも詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。 【参考記事】 ・箱罠の仕掛け方について ・くくり罠の成果を上げるためのコツ ・イノシシ対策~罠の種類 3.忌避剤 イノシシを田畑に寄せ付けないお手軽な方法としては、忌避剤(きひざい)が挙げられます。イノシシが嫌う臭いを配合した液体で、被害を受けたくない場所の外周部に散布することで、イノシシが近寄らないようにすることを目的とします。他の施策比べると、導入が手軽かつ環境への影響もすくない特徴があります。 忌避剤には、各種トウガラシ、ハーブ、オオカミ尿(ウルフピー)など様々なタイプがあります。例えば、ウルフピーではイノシシの天敵であるオオカミの尿を使用。オオカミが尿や体の匂いで自分のなわばりを主張する「マーキング」の習性をイノシシ対策に応用したもので、イノシシは匂いを嗅ぎ付けこのエリアを警戒するようになります。 使用する際のポイント 忌避剤を使用する際のポイントとして、物理的な対策と併用することで効果を高めることができます。忌避剤はイノシシ対策として「絶対的な効果を保証するもの」ではありません。 これは、イノシシが匂いに慣れてしまい警戒度が下がってしまうといった理由が挙げられます。そこで、忌避剤とあわせて物理的な箱罠やくくり罠を用いることで、より効果を高めることができます。 設置する高さを細かく調整するのも、効果を高めるポイントです。 イノシシへの対策として用いるなら、40cm程度が鼻の高さとなります。ウリボウの足跡も見られるなら、やや低く20cm程度の高さにも設置しておきましょう。 また、雨のあとや液体が蒸発して減少してしまうと、匂いが薄まり効果が軽減してしまいます。雨除け対策や定期的な補充をおこなうなど、メンテナンスに取り組んでおきましょう。 4.音を使った対策 イノシシが音に反応して逃げ出す習性を利用するのが、音を使った対策です。例えば、防除威嚇機は光センサーによりイノシシを察知すると、威嚇音を発します。この音に驚いたイノシシが逃げ出し、農作物被害を防ぐ仕組みです。この他にも、ランダムに音を発生させるタイプや鈴を設置する方法もあります。 音に慣れさせないことが重要 音を使った対策は、忌避剤と同じくイノシシが慣れてしまうと効果が低下してしまいます。こちらも、物理的な対策と組み合わせて取り組むことで効果を高めていきましょう。 音をつかった防除商品はこちら>> 5.その他のイノシシ対策 上記の対策以外にも、最近ではイノシシを寄せ付けないための新しい対策も行われるようになってきています。中には、ロボットや超音波を活用するなど、従来のイノシシ対策では無かったような試みも始まっています。 【★参考記事】 新・イノシシ対策。 まとめ 上記の防除・駆除施策を実施したとしても、はじめのうちは効果を出していたものの、イノシシの学習能力によって無効化されてしまうケースもあります。 被害発生状況や場所はしっかりと把握しておき、効果確認しておくことはもちろん、防除策を突破された場合、イノシシの侵入経路や原因の把握、イノシシの行動を分析すること等も重要になります。 獣害対策は一朝一夕にはいきませんが、適切に対処すれば必ず被害を抑えることができますので、諦めずに解決するための方法を模索していく気持ちが大切です。
イノシシ対策に効果のある電気柵の設置方法
イノシシは学習能力が高く警戒心の強い動物です。農作物被害の対策として電気柵を設置する場合も、効果を上げるために設置方法を工夫する必要があります。 本記事では、イノシシ向けの電気柵の仕組みと、効果的な設置方法を7つのポイントから解説しています。防御の効果をできるだけ上げられるよう、適切な設置方法を確認していきましょう。 イノシシ対策として電気柵はどう使う? イノシシ対策として電気柵を用いる場合、農作物を囲む防護柵に電気を通しておき、侵入を試みるイノシシに電気ショックを与えます。 電気ショックによって身体的にダメージを与えるというよりも、恐怖心を学習させることにより、イノシシが柵を避けるようにすることが目的になります。 イノシシは警戒心が強く、自分が生活するエリアを注意深く観察する習性を持っています。その際、おもに鼻を使って様々な情報を取得しようとしますが、電気柵の電線が鼻の部分に触れたときに電気ショックが走ります。 この電気ショックによる「痛み」や「恐怖」が目的で、『この場所は危ないから近付かないでおこう』とイノシシに学習させ、農作物から遠ざけることで被害をくい止めるのです。 電気柵の仕組み 電線に何も触れていない状態では、電気柵の本体から出力された電流(+)が電線を伝って流れている状態となります。また、本体から地面にアース(-)が取られています。 ※電流は常時流れているわけではなく、通電時間が1秒ごとに0.01秒以下という断続的なパルス電流になっていますので、動物を殺傷するほどの能力はありません。人間が誤って触れてしまった場合でも重篤な事故を避けることができます。 この状態でイノシシの鼻先など通電しやすいものが電線に触れると、イノシシの体をつたって電線→イノシシの体→アース→本体という順序で電気の通り道ができます。これによってイノシシが電気ショックを受けるわけですが、痛みの程度としては、「バチッ」と強い静電気を受けたくらいです。電気ショックを受けると、イノシシは驚いて逃げる行動をとります。 イメージとしては、理科の実験でよく見かける豆電球のような仕組みです。電気柵本体が乾電池、電線が導線、イノシシがスイッチの役割を果たします。イノシシの鼻が触れてスイッチが入ると、通電して豆電球が光る(電気ショックが起こる)といった仕組みです。 そのため、電気がきちんと通電するように設置場所や方法を工夫することがとても重要な意味を持ちます。 効果の上がる電気柵の設置方法7つのポイント 電気柵を使ったイノシシ対策では、効果を上げるために設置のポイントをしっかり押さえておくことが大切です。ここでは、設置方法の7つのポイントをご紹介します。 1.適切な通電状態を確保する 電気柵を設置する際は、適切な通電状態を確保することが重要です。電線部分に漏電がないか、また地面の導電性に問題がないか確認する必要があります。 漏電がないかよく確認する よくあるのが、ガードレールやトタンなど導電性があるものに電線が触れており漏電が発生しているパターンです。ほかにも気づかないうちに電線が草や木や石に触れてしまっており、漏電が発生していることがあります。漏電があると、電気柵全体の電圧が下がってしまうので、イノシシに十分な電気ショックを与えることができません。 また、ガイシを使わずに支柱に直接電線を巻き付けるのは避けましょう。傍目は通電性が無い材質だとしても、電気柵は高電圧であるため、漏電が起こります。ガイシを使っていても、電線が適切に取り付けられておらず金属個所に触れてしまっている場合もあるので、設置の際によく確認しましょう。 地面の通電性に注意 先ほど電気柵の仕組みの部分でも触れましたが、電気柵は豆電球のような仕組みでイノシシが触れることで地面(アース)との間に回路ができることで電気が流れます。 しかし、柵を設置する場所の地面が通電しにくい状態の場合、十分な効果が得られません。 具体的には、コンクリートやアスファルト、石畳といった場所は避けるようにしましょう。 また、乾燥した土壌など、地質や土壌条件によっては通電が悪くアースが取りにくい場合があります。 柵を設置しようとする場所とコンクリートやアスファルトが近い場合は、柵がコンクリート等からできるだけ離れるよう設置場所を調整するか、通電性の良いトタン板などを敷くことによってアースとして機能させるという手もあります。 またアース棒を使って地面と本体のあいだにアースを取る場合は、アース棒がきちんと設置場所の地面に埋まっているか、断線していないか確認します。 設置時に適切な通電状態を確認するのはもちろん、設置後も定期的にチェックすることが重要です。 2.傾斜地から離す 電気柵を設置する場合は傾斜地から離すようにしましょう。 傾斜地すぐそばに柵を設置していると、傾斜の高さを使ってイノシシが柵を飛び越えてしまいます。※イノシシは助走なしで1m以上ジャンプできると言われています。傾斜地がある場所からは、2mほど距離を取って、平らな地面に設置しましょう。 また、柵や電線の下の地面に凹みがある場合は、イノシシが電気柵の下をくぐり抜ける可能性があるため、あらかじめ地面を平らにならしておくとよいでしょう。平らにできない場合は、凹み部分に電線を追加するなどして、隙間を作らないよう工夫します。 3.雑草を刈る 電気柵の近くに雑草がある場合は、あらかじめ刈っておくようにしましょう。 前述のとおり、電線に雑草等が接触していると、漏電してしまい電気が流れにくくなってしまいます。 雑草以外にも、倒木や枯れ枝、水たまりなどに触れていると同じく効果が軽減します。設置時はもちろん、設置後も定期的に見回りをしてメンテナンスを行うことが重要です。 4.イノシシが潜む場所をなくす イノシシは非常に警戒心が強く、電気柵を設置するとじっくり観察しようとします。その際に、柵の近くにイノシシが潜むことができる藪や雑草が生い茂っていると、柵の通電状況に影響がでるだけでなく、イノシシが電気柵の付近まで容易に侵入してくる経路となってしまいます。 こういった経路をイノシシが良く使うようになると、心理的な警戒レベルを下げてしまい、電気柵に慣れてしまう可能性があります。 電気柵を設置した付近でイノシシが潜むことができそうな藪や雑草はあらかじめ撤去しておきましょう。 5.電気柵の隙間をなくす 電気柵は、守りたい土地をしっかり囲むように設置しましょう。手薄の部分があると、イノシシはそこを見つけて侵入しようとします。それを見た他のイノシシも真似するようになり、せっかく設置した電気柵が防護柵として機能しなくなることも。 特に広域に設置するような場合は、手薄になる個所がでやすくなりますので、守るべきエリアが電線によってちゃんと囲まれているか確認しましょう。 6.イノシシの鼻の高さに設置する 電気柵を設置する場合、電線はイノシシの鼻の高さを目安に設置しましょう。 イノシシの体には毛がびっしりと生えており、体に柵が触れた程度では電流は通りません。力も強く身体能力が高いので、柵をなぎ倒して侵入してくる場合もあります。 狙うべき部位は、敏感なイノシシの鼻先部分です。イノシシの鼻先の高さを想定して、地面から40cm程度の高さを目安に電線を設置しましょう。あわせて、イノシシが柵の下をくぐり抜けないよう、地面から20cm程度の位置にも電線を設置します。 低い位置に設置しておくと、サイズの小さいウリボウの対策にもなるため効果的です。 『2.傾斜地から離す』、で紹介したように地面に凹みがある場合は、もう1本電線を設置するなどして隙間を作らないようにしましょう。 7.24時間電気を流す 電気柵を設置したあとは、24時間電気を流すようにしてください。 昼間の明るい時間は電気を通さず、夜間だけ通すといった使い方をするとイノシシが電気柵を「ただの紐だ」と認識してしまいます。これでは恐怖感を植え付けることができず、電流が通っている状態でも柵の中に侵入するようになってしまいます。 イノシシが常に「危ないから近付かないでおこう」と認識できるように、24時間通電稼働させましょう。 また、電気柵を設置する際は、未通電の時間が発生しないよう、設置後はできるだけすぐに稼働させてください。 未稼働の状態でイノシシが柵を突破してしまうと、柵は怖くないものと認識してしまい柵を怖がらなくなります。こうなると後で通電を開始しても効果が弱くなってしまいます。 とくに広域に設置する場合は設置に時間を要しますが、あらかじめ計画を立てておき、未通電の状態でイノシシが柵に近づく期間が発生しないようにしましょう。 イノホイでは電気柵のお取り扱いもございます。設置をご検討の方は、こちらからお見積りをご依頼ください。※ご依頼の際は、対象動物や設置する場所の広さをお知らせください。
オオカミの尿を使った鳥獣対策について
農林水産省が令和2年11月に発表した「鳥獣被害の現状と対策」によると、平成30年度の野生鳥獣による農作物被害額は158億円に上りました。年度単位の推移では減少傾向にあるものの、依然として被害額は大きく継続的な鳥獣対策が不可欠となっています。 そのため、被害を引き起こす獣に対して様々な対策品が登場していますが、その中で自然環境や景観を壊さず、自然や動物に優しい鳥獣対策として開発されたのが、オオカミの尿を使った忌避対策です。 オオカミの尿(ウルフピー)を使った対策とは? 太古からオオカミは野生動物にとって天敵として恐れられてきました。オオカミの捕食対象となるイノシシやシカなどの動物はとくに警戒心が強く、生き残るために捕食者の気配や匂いを忌避する本能をもっています。 こうした習性を野生動物対策に利用したのが、オオカミの尿(ウルフピー)を使う対策です。オオカミが尿や体の匂いで自分のなわばりを主張する「マーキング」を害獣対策に応用したもので、具体的にはオオカミから採取した尿を専用の容器を使って設置します。 イノシシやシカ等の野生動物は、この匂いを警戒しエリアに近付かなくなるため、田畑においても害獣を忌避させる効果を期待することができます。 またウルフピーは人工の添加物を使わないため、使用するエリアの環境に影響を与えることがありません。 例えば、無農薬栽培に取り組む場合や、農作物に利用する水を汚染するといった心配がないため「自然や動物に優しい」野生動物対策といえます。設置する手間が比較的容易な点もウルフピーの特徴です。 ウルフピーには恐怖を誘起する特徴がある では、どうして野生動物はウルフピーを警戒するのでしょうか。この理由に関しては研究論文が発表されています。 2015年に発表された『恐怖の匂い : オオカミ尿由来の恐怖を誘起するピラジン誘導体カクテルP-mix』(柏柳誠、長田和実、宮園貞治)では、ウルフピーに動物が忌避行動や強い恐怖行動(不動化)を引き起こす物質が含まれていることを突き止めました。 P-mixと呼ばれるこの物質は、動物の嗅覚を刺激し恐怖行動を誘起。動物は周囲にオオカミがいるという危険を本能的に察知し、忌避行動を取ります。これがウルフピーを野生動物が警戒する理由です。 忌避効果がないという研究結果もある 一方で、ウルフピーは忌避効果がないという研究も発表されています。 農研機構が発表した『イノシシ対策に使われているオオカミ尿には忌避効果がない』によると、ウルフピーを吸収させたワラを使ってイノシシの忌避効果を検証したところ、大きな有意性は見られませんでした。 理由としては諸説あり、当初は忌避効果があるものの動物が慣れてしまう、ウルフピーの設置方法が適切でなかった、日本にはオオカミが生息していないため獣がオオカミの縄張りを認知しない、といった可能性も考えられます。とはいえ、獣の行動を見て確認するしか確かめる術がないため、証明が難しいところです。 ただ、実際に導入した結果として、効果が見られたという声も多くあるため、忌避行動や強い恐怖行動を引き起こす物質はたしかに存在するが、野生動物対策において「絶対的な効果を保証するものではない」という点を押さえておくことが重要です。 効果的なウルフピーの活用方法は? ここまで、ウルフピーの効果をご紹介しました。ここからは、より効果的にウルフピーを活用するための方法について見ていきましょう。 物理的な防御と併用して使用する ウルフピーを使用する場合は、防護柵やネット等、物理的な防御と組み合わせて使用するのがおすすめです。 すでにご紹介したように、ウルフピーには忌避行動や強い恐怖行動を引き起こす物質が含まれており、一定の忌避効果がみられます。しかし、動物の慣れや種類によっては効果が認められない(低い)ケースもあることから、物理的な防御を併用して使うことで、より効果を高めることができます。 ウルフピーと物理的な防御を上手に組み合わせることで、対策効果を高めていきましょう。 設置場所の間隔幅や高さを細かく調整する 設置場所を細かく調整することも、ウルフピーの効果を高める方法の1つです。具体的には、被害をくい止めたいエリアを囲むようにしてウルフピーを設置します。また、動物のサイズによって設置する間隔幅を調整してみましょう。 〇イノシシ、シカ、クマなどの大型動物:約5~6mごとに設置 〇サル、ハクビシンなどの小型動物:約3~4mごとに設置 とくに侵入が多い箇所は間隔幅を狭めると効果が高まります。あわせて、ウルフピーを設置する高さも、対象動物の鼻の高さを意識して設置するのがおすすめです。 獣道を塞ぐように設置する 動物が侵入してくる獣道が分かっている場合は、獣道を塞ぐようにウルフピーを設置します。通り慣れた獣道は、動物が異変を察知しやすい箇所です。こうしたエリアにウルフピーを設置しておけば、効果を高めることができるでしょう。 定期的な補充と雨除け対策を講じる ウルフピーは液体であるため蒸発してしまいます。完全に蒸発してしまうと効果を下げる可能性があるため、1ヵ月程度で補充するようにしましょう。また、雨除け対策を講じておくのも、継続的な効果を高めるには良い方法です。 雨により尿の濃度が下がってしまうと、匂いの効果も軽減してしまいます。設置場所の上部に雨除けや、アルミホイルを使うなどして対策を施しておきましょう。 ★ウルフピーの購入はこちらからどうぞ>>
狩猟解禁!今年の猟の状況は?
多くの地域にて、今月15日に狩猟が解禁されました。キジやカモ、イノシシ、シカといった鳥獣をターゲットに、多くのハンターが活動を開始しており、「今年も始まったか!」と感じている方も多いと思います。今年の各地の猟の情報も入ってきており、一部紹介できればと思います。 秋田県 今年もツキノワグマ・イノシシ・ニホンジカの狩猟解禁が11月1日に前倒しとなり、カモ猟の解禁と重なりました。イノシシ目撃頭数が129頭と過去最多で被害も相次いでいるので、狩猟の成果も期待できるところです。狩猟期間は来年2月15日までですが、ニホンジカとイノシシ猟は3月15日までです。 宮城県 狩猟の解禁とともに、河川では車や徒歩で移動しながら猟をする「流し猟」でカルガモを仕留めている姿も。狩猟期間は2021年の2月15日まで。 千葉県 イノシシの行動が活発です。館山市では、2020年度のイノシシの捕獲数がすでに過去最高とのこと。豚熱陽性のイノシシが近県で確認されており防疫措置の協力と、昨年の台風によって猟場が荒れたままになっているところも残っているため十分な注意を。 群馬県 シカによる被害が目立ちます。甘楽町などではシカによるリンゴ食害が深刻化しているそうです。町内の捕獲頭数は本年度、既に過去最多の200頭余りに上っているとのこと。 富山県 主要な狩猟獣であるキジやヤマドリ、カルガモ、タヌキなどの生息数は平年並みとのこと。猟期は来年2月15日まで。※イノシシとニホンジカは農作物被害防止のため、猟銃、わな猟ともに3月31日まで。 長野県 「豚熱の影響かイノシシが少ない印象」という声を聞きます。※人の移動による豚熱(豚コレラ)ウイルス拡散を防ぐため、長靴や車両のタイヤの消毒などを呼び掛けています。狩猟期間は来年2月15日までですが、鹿とイノシシのわな猟は3月15日までです。 福井県 今秋はツキノワグマの出没や人身被害が相次いでいます。捕獲後に山で放獣したり、駆除したり猟友会が頑張っているとのこと。今年4〜10月の出没件数は953件で、統計を取り始めた04年度以降で3番目に多い状況です。捕獲数は嶺北153頭、嶺南31頭。うち、嶺北120頭、嶺南28頭の計148頭が駆除され、駆除率は全体で8割を超えているそうです。 愛知県 豚熱に対し、引き続き警戒体制が行われています。野生イノシシの豚熱陽性確認地点から半径10kmの区域を含む市町村が陽性エリアとされており、陽性エリアで狩猟する場合は、消毒などを実施するよう呼びかけられています。 陽性エリア:名古屋市、豊橋市、岡崎市、瀬戸市、春日井市、豊川市、豊田市、西尾市、蒲郡市、犬山市、小牧市、新城市、尾張旭市、日進市、みよし市、長久手市、幸田町、設楽町、東栄町、豊根村 山梨県 女性の狩猟免許取得者が急増しており、特にわな猟免許の取得が多いそう。一方でクマの目撃情報が多く、今月15日には北杜市の山林で狩猟中の男性がクマに襲われ顔などに軽いけがというニュースもありました。くれぐれも安全第一で。 和歌山県 夏場は、串本町と古座川町で、有害鳥獣駆除によるイノシシの捕獲数が大幅に増えていると聞きましたが、直近では「場所によっては、豚熱の影響でイノシシが全然いない」という声も。 10月中旬以降、奈良、大阪、和歌山の3府県で感染イノシシが初めて確認されており、農水省は封じ込めに向け、経口ワクチンベルトを設けて対策を進めてきたものの、西日本での一層の感染拡大が懸念されています。 兵庫県 2016年に再開されたツキノワグマの狩猟は、今年は生息数が狩猟解禁基準の800頭を下回ったとして再び禁止に。大物猟ではイノシシやシカをメインターゲットに活動するハンターも多いようです。初猟で早速イノシシを仕留めたとの声も。イノシシと二ホンジカの狩猟期間は3月15日までで、他の鳥獣は2月15日まで。 岡山県 山だけでなく、街でもイノシシが大暴れ。今月20日には岡山市南区のホームセンターにイノシシが出入り口のガラスを突き破って中に侵入。岡山南署員や地元猟友会員ら約40人が出て、約1時間後に店内で取り押さえたそうです。 福岡県 イノシシとシカの狩猟期間は、開始が一足早めの11月1日、終了は3月15日までです。スタートから多くの獲物に恵まれているとの声も。 その他の全国概況 クマが生息している地域では、出没情報や被害が相次いでいます。 全国でのクマによる人的被害は、環境省がまとめた速報値で、10月末までに132人。都道府県別では岩手県(26人)が最多、新潟県(14人)、石川、福井両県(12人)と続きます。秋田、新潟両県ではそれぞれ死者が1人出ています。全国の出没件数は4~9月で1万3670件に達し、16年度以降の5年間で最も多いそうです。 また感染症による影響も耳にします。新型コロナの影響によって飲食店に足を運ぶ客が減少、ジビエの消費が減っているのに加え、イノシシは豚熱の感染の影響によって21の都府県の一部地域で出荷ができなくなっています。厳しい経営に陥っている食肉加工施設もあるようです。 その他、全国で大ヒットを記録している「鬼滅の刃」のキャラクター「嘴平伊之助(はしびらいのすけ)」の恰好を模したコスプレイヤーが猟期の山に無許可で入って立入禁止区域で猪のお面つけて撮影して話題となったニュースもありました。狩猟が行われている場所では誤射の可能性もあり、猟をする側からすると本当に危険であり止めてほしいところです。 台風等の影響で、足場の悪いところが残っているかとおもいます。そういった場所ではつまづきやスリップに特に気を付けつつ、ルールやマナーを守って、今年もご安全に猟を楽しみましょう。
イノシシの嫌がるものとは?
年間約50億円ほどの農作物被害を出すイノシシ。農作物被害だけでなく、都市部ではゴミを荒らしたり、人を襲ったり、車とぶつかったり。テレビでの報道も増えてきており厄介者というイメージが広まってきていますが、殺さずに人間を避けてくれるならそれに越したことはありません。この記事では、イノシシが嫌がるものをいくつか紹介したいと思います。 カプサイシン+青色資材 唐辛子の辛みの主成分であるカプサイシン。人間でも唐辛子が皮膚に触れると、ヒリヒリした感じがしたり、くしゃみや涙が出たりしますよね。筆者は昔、生の唐辛子のへたや種を取る作業をしたことがありますが、最初はヒリヒリ程度だったのが、あとで火傷したぐらい痛くなった経験があります。 そういった刺激を感じる理由は、カプサイシンが神経を刺激するためですが、野生鳥獣に対する忌避効果もあります。イノシシも唐辛子の匂いに対して忌避行動を示します。 過去に野生イノシシに対する忌避資材を検証した実験があり、トウガラシエキス +木酢液については忌避効果が見られなかったという結果となったため(和歌山県農林水産総合技術センター研究報告)、カプサイシンはイノシシに対して効果がないという意見もあります。 一方で、別の地域では青色資材とカプサイシンを組み合わせることで、イノシシ侵入防止の成果を上げています(群馬県教育委員会 環境実践事例集)。ここでも、カプサイシンだけを散布した場合は、短期的な効果があったもののすぐに効果が薄れたという結果になっています。 忌避効果を上げるには、青色資材とカプサイシンの組み合わせがポイントのようです。イノシシは2型2色型色覚で、緑色を感知する視細胞がありません。そのため、赤や緑は認識できず、青色のみを認識すると言われています。 カプサイシン+青色資材の忌避効果を利用したイノシシ忌避商品も開発されており、田畑・ゴルフ場・NEXCOやJRでも採用されています。百聞は一見に如かず。以下の動画でその様子を確認することができます。 超音波や光 超音波や光を用いて、イノシシやその他野生鳥獣の忌避を目的とした商品も多く見られるようになりました。 超音波とは、人間の耳には聞こえ難い高い周波数(振動数)を持つ音波です。人間の耳は20Hz〜20kHzの周波数の音波を聞くことが出来ると言われていますが、それより高い周波数の音を照射することで、害獣を威嚇し逃避させるメカニズムです。 イノシシを対象に水飲み場付近に超音波照射装置を設置した実験があります(参考)。これによると、超音波照射前後で、水飲み場付近での滞在時間が平均して約 50%以上減少、特に、約70db以上の音量かつ20kHz前後の超音波の照射を嫌がり、忌避行動をとることが確認されたとのこと。 超音波発信機搭載のドローンを使ってイノシシを追い払う試みも実施されています(参考記事)。赤外線カメラを使ってイノシシを見つけ、接近して4kHz~50kHzの超音波を出すと、一目散に逃げていく様子が確認できたといいます。※そもそも、ドローンに驚いて逃げて行った可能性もあります。。。 また、前述の通りイノシシが青色に対して忌避することを生かし、青色LEDを自動点滅する商品も多く販売されています。山口県では、センサーにより発光する強力なLEDライトを利用した新たなイノシシ被害軽減対策の実証試験が実施されています(山口県の報道発表)。 爆音 一昔前は、LPガスを使った爆音機が多く見られました。定期的に「ドカーン!」と爆音を鳴らすもので、初めのうちはイノシシも驚いて忌避効果が見られますが、そのうち慣れてしまって効果が無くなったという声をよく聞きました。また、音量の調節が難しいため、苦情にもつながりやすくなります。 それらを考慮し、猟犬の追い鳴きや、天敵であるオオカミの鳴き声などを発する商品も販売されるようになりました。センサーで作動し音量は自由に調節可能、イノシシが学習することによる慣れも考慮して様々な音をランダムで発するような仕組みとなっているものも見られます。 ※爆音機は比較的安価で取扱いも容易ですが、農地と住居が混在している場所での使用は騒音苦情の発生につながりやすくなりますので、十分な配慮が必要です。 その他 天敵であるオオカミの尿を撒いたりすると効果が見られる場合もあります。一方で、オオカミの尿の臭いそのものに対する忌避行動は見られず、忌避効果が見られた要因は、急に臭いのある物が置かれたという環境の変化に警戒したと結論づけている過去の実験もあります(農研機構の研究報告)。イノシシは警戒心が強く、普段と違うものは警戒して避ける傾向があります。 猛獣の糞や人間の髪の毛なども忌避効果があると言われることがありますが、上の動画ではイノシシが忌避行動を示すことはなく、食べてしまっています。 他にも、一時的な忌避効果が見られたとされるものは、そのものをイノシシが避けていたのではなく、実は環境変化を警戒していたケースも考えられますので、根拠がないものを盲信するのは避けたほうが良いでしょう。 まとめ イノシシが嫌がるとされるものをまとめてみました。防護柵などで物理的に侵入防止対策をされている場合は、今回紹介したようなものを補完的に導入することで、防御力を上げることが期待できます。 また、藪の刈払いによって見晴らしを良くしたり、餌となるものを放置しないようにしてイノシシが寄り付かない環境をつくることが基本的な対策になります。 ▶イノシシ対策の特集ページはこちら>>
イノシシ被害について
イノシシによる被害は里山に住む人にとって身近な問題です。中でも農業を営む方にとっては、作物を育て食し、売っていかなくてはならない中で、そこにイノシシ被害を受けてしまうことは大きな打撃になります。 高齢化や過疎化の影響もあり農家の経営はただでさえ苦しいですが、田畑が荒らされることが追い打ちとなり、営農意欲まで奪い取られてしまいます。 農林水産省の発表によると、イノシシによる農林水産被害額は平成30年度で約47億円となっており、農業を営む人にとっては死活問題となる深刻な事態です。 イノシシ被害の例 全国の野生鳥獣による農作物被害額は平成30年度で158億円となっています。被害を与える鳥獣はある程度限定されており、全体の約7割がシカ、イノシシ、サルによるものです。 このうち、イノシシによる被害は全体の約3割に達しています。 ※公表等されている被害は限定的で、正確な情報が把握されていなかったり、被害が少ない・程度が軽い場合もあるため、未公表の被害も多々あると思われます。 農作物に係る被害 イノシシによって人間が被害を被る中で、もっとも深刻なのは農作物が荒らされるケースです。中でもイネの被害金額は非常に高く、全国で24億円に達しています。 イノシシは雑食であるため、被害作物は多岐にわたります。また、栄養価が高く比較的消化しやすい部位を好むため、季節ごとに状況の良い作物を選んで集中して食害する傾向があります。イネの他にも、果樹や野菜、いも類の被害が顕著となっています。 食害だけでなく、田畑を掘り返されたり踏み荒らされたりして駄目にされる被害もあります。 被害の面積でみると、イネで3600ヘクタール、果樹で1000ヘクタールに達しています。因みに、1000ヘクタール(ha)は、東京ドーム約213個分の広さです。 こちらの記事もどうぞ:イノシシの生態・行動を詳しく解説 人身被害 イノシシは身体能力が高く、襲われて人身被害を受けるケースもあります。市街地でも多く発生していますが、こう言った場所では罠を使った捕獲が難しかったり、銃器の使用ができなかったりするため、簡単に解決できないケースも散見されます。 環境省は平成28年から人身被害件数を集計していますが、それによると被害件数は毎年50件前後、被害人数は50~70人前後を推移しています(狩猟や捕獲作業にともなう人身被害は除いた数値です)。被害が多い地域は、兵庫県、香川県、栃木県です。 こういった被害が起こる背景として、市街地にイノシシが出没するようになり、ゴミや餌付けなどによってイノシシが人慣れしてしまったことが考えられます。 また、市街地でのイノシシ被害の場合、住民が自身ごととしてとらえる意識は低く、自分たちで対策等を行うのではなく行政へ対応を求める場合が多く、地域ぐるみでの対策が困難となりがちです。 こちらの記事もどうぞ:イノシシ対策~何をすればよいのか?【市街地編】 生活環境被害 人身被害以外にも、交通事故やゴミ集積場を荒らす、家屋侵入等といった生活環境被害を受けるケースもあります。 これも、餌付けやゴミの放置をおこなった結果、人慣れしたイノシシが人間の生活圏内で被害を起こすようになった背景があります。 こういった状況をふまえ、人身被害や生活環境被害が多く発生している神戸市では、2014年に東灘区・中央区で相次いで発生したイノシシによる人身事故を受けて、神戸市では餌付け行為を指導・禁止する取り組みを強化するため、公表の規定等を追加する条例の改正を行いました。 イノシシ条例(神戸市いのししからの危害の防止に関する条例) 庭やクリーンステーションを荒らされるといった生活環境への被害や、人が噛み付かれたり、イノシシが原因で交通事故が起こるなど、イノシシ問題は、地域の住民の方にとって重大な問題となり、2002年5月1日から施行されました。 しかし、一部の住民が餌付けをやめなかったことから、市街地でのイノシシ出没が止まらず、イノシシへの餌付け等を禁止する「規制区域」の指定や、悪質な条例違反者に対する措置を盛り込んだ条例改正が行われました。 条例の内容は以下の通りとなります。 1.市はイノシシによる被害の防止のため、積極的に啓発活動を行います。 2.市は住民の方の意見を聴いて、規制区域を定めます。 3.規制区域では、 ・イノシシに餌をやることが禁止されます。 ・イノシシの餌になるようなごみなどをみだりに放置したり、捨てたりすることが禁止。 4.違反した者に対して、市は勧告を行うことができます。 ・勧告に従わない違反者に対して、市は勧告に従うよう命令することができます。 ・命令に従わない場合は、市はその旨(餌付け者の氏名等を含む)及びその命令の内容を公表することができます。 こちらの記事もどうぞ:名所における鳥獣被害の現状 求められる被害対策とは? 害獣が入ってこないよう柵を設置したり忌避剤を散布することですが、あくまで防御としての対策であり、根本解決とは言えません。被害が増えれば増えるほどメンテナンスにも労力がかかるため積極的な獣害対策の必要性が出てきます。 イノシシやシカなどに対する積極的な対策の方法としては、銃猟とわな猟があります。近年、ほとんどの地域で、銃猟による捕獲数よりもわな猟での捕獲数が上回っています。 環境省と農林水産省は「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」(平成25年12月)を共同で取りまとめており、「ニホンジカ、イノシシの個体数を10年後(令和5年度)までに半減」することを当面の捕獲目標としています。 この目標を達成するため、環境省では、鳥獣保護管理法に基づき、集中的かつ広域的に管理を図る必要がある鳥獣としてニホンジカ及びイノシシを「指定管理鳥獣」に指定するとともに、都道府県等による捕獲事業を交付金により支援しています。 まとめ 最近は、テレビでもイノシシ被害や捕獲について取り上げられるようになってきていることから、都市部に住む人にも少しずつ認知が広がってきています。 しかしながら、身近な問題でない限りは自分事として捉えることは難しいもの。生命を奪うことについて嫌悪感を示す人も多く、被害を受ける当事者との認識のギャップは埋まりません。 イノシシ対策を効果的に実施するには、多くの人に被害の実態を知ってもらうことも重要であり、積極的な啓発活動も必要とされます。 こちらの記事もどうぞ:効率的な獣害対策の必要性
シカ・イノシシの個体数について
一昨日、環境省より平成30年度版 全国のニホンジカ及びイノシシの個体数推定等の結果が公開されました。それによると、現時点で最新の推定値として、平成28(2016)年度末の全国(本州以南)のニホンジカの推定個体数は中央値約272万頭、イノシシの推定個体数は中央値約89万頭となり、前年度に引き続き減少傾向であることが明らかになりました。 個体数推定のための統計手法について シカは低い初産齢とほぼ毎年出産するという特徴があります。またイノシシは多産で、春に2~8頭の子を産みます。そのため、シカやイノシシは、大型哺乳類の中では短期間で大幅な個体数変動をおこなう種といえます。 しかしながら、このような場合の生息密度や個体数を精度高く推定する方法は確立されていません。上記の環境省の個体数推定では、①個体数(翌年)=個体数(ある年)×自然増加率-捕獲数、②個体数(翌年)=個体数(ある年)×ある年と翌年の生息数指標の変化率という2つの前提のうえ、階層ベイズモデルが用いられています。 階層ベイズモデルとは 階層ベイズモデルとは、「ベイズ理論」という統計手法を多段階にして導き出すモデルです。この推定モデルは、個体数推定のほかにも様々な分野で活用されています。概念としては「ベイズ理論」と対をなす「頻度論」と比較すると理解しやすいかと思います。 頻度論 コインを投げたときの裏表を例に挙げると、頻度論ではコインを投げたとき表が出る確率は二分の一です。頻度論では、無限回試行を前提とした確率で考え、主観的なパラメータは排除されます。 ベイズ理論 頻度論が無限回試行を前提としているのに対し、ベイズ理論は、その時点で持ち合わせた情報をもとにした一回限りの確率を積み重ねるという考え方をします。 また、ベイズ理論では主観性を考慮します。 そのためベイズ理論においては、現時点でデータが全くなかったとしても、主観的な数値によってとりあえず事前に確率を設定しておくことができます。この確率を事前確率といいます。 例えば、コインを投げる人はコイン投げの達人だから、表ばかり出すことを狙ってくるはずだ、だから表が出る事前確率は五分の四だ、といったような主観を入れることが可能なわけです。 そして、事前確率を設定したのち、何らかの新たな情報を得て、出した確率を事後確率といい、事後確率は新たな情報によって更新されていきます。新たな情報を手に入れたら、前回は事後確率だったものが事前確率となって、さらに確率の更新が行われるという仕組みになります。 どんどんデータを足して更新していけば、現象をより詳しく説明できる分布を推定することができるようになります。先ほど例に出したコイン投げで考えると、コイン投げの結果のデータを足して更新していけば、表が出る確率は二分の一というのが最もありえるモデルで、0や1に近いモデルほどありえなさそう、といった形の確率分布になります。 ベイズモデルを使った推定値は、点推定値と標準偏差、信用区間を基本に報告されます。点推定値とは確率分布の代表値のことで、中央値や平均値をおもに使います。信用区間とは、たとえば90%信用区間であれば「90%の確率でその範囲に真値がある」という区間になります。 シカ・イノシシの個体数の推定値について さて、平成30年度版 全国のニホンジカ及びイノシシの個体数推定に話を戻すと、以下の結果が得られています。 ニホンジカの個体数推定結果 2016年度末における全国のニホンジカ(本州以南。北海道を除く)の個体数は、中央値で約272万頭となっています。50%信用区間では約237~314万頭で、90%信用区間であれば約199万~396万頭です。 イノシシの個体数推定結果 2016年度末における全国のイノシシの個体数は、中央値で約89万頭となっています。50%信用区間(50%の確率でその範囲に真値がある)は約80万~99万頭で、90%信用区間であれば約70万~116万頭です。 捕獲数の推移 環境省及び農林水産省は、2013年12月の「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」において、「ニホンジカ及びイノシシの生息数を10年後(2023年度)までに半減」することを当面の捕獲目標に設定しました。 具体的には、本州以南のニホンジカは、2013年度の推定値である261万頭を2023年度までに半減、またイノシシについては88 万頭から2023年度に50万頭まで減少させることを目指すとしていました。 これに伴い、捕獲数も年々増加しており、2016年度ではシカの捕獲数は約58万頭、イノシシの捕獲数は約62万頭に達しています(詳細な数値はこちらをご覧ください)。ここ10年の狩猟免許保持者数がほぼ横ばいであることを考えると、少ない捕獲者が効率的に狩猟圧を上げることができているといえます。 しかしながら、今回の個体数推定の結果、今の捕獲率※を維持した場合、2023年にはニホンジカの個体数が207万頭になるとされており、上記の目標に達することができない見込みとなっています。 また、目標を達成するには、捕獲率を現状の1.45倍にする必要があるとされています。※捕獲率:前年度の推定個体数に対する当該年度の捕獲数の割合 イノシシについては、生息数の将来予測は今回公表されておりませんが、目標達成のためには、引き続き同程度以上の捕獲を全国で行うことが必要であると考えられます。 今後求められる対応について 今後も引き続き、積極的な捕獲による個体群管理が不可欠となっており、今回の結果も踏まえた都道府県による捕獲目標の設定、捕獲状況の速やかな把握、目標の達成状況の評価、必要に応じた目標の見直しを推進していかなくてはなりません。 また、ニホンジカ及びイノシシを捕獲する事業を実施する都道府県は、交付金により支援されますが、都道府県による目標達成の評価が行われれば、それを踏まえた予算の見直しも必要になってくるでしょう。 ※参考記事:鳥獣被害防止対策のための交付金について~鳥獣被害防止総合対策交付金
一度は食べてみたい!絶品イノシシ肉ジビエ料理の食べ方やレシピ5選。
猟師にとってはおなじみのイノシシ肉ですが、その食べ方は一般の方にとってはそれほど馴染みがないものかもしれません。一般的な豚肉と比べると個体差が大きいですが、良質なシシ肉はまさに絶品の一言につきます。 この記事では、猪肉をおいしくいただくための料理レシピを紹介します。 まず、猪肉の特徴から 高たんぱく低カロリーであることが大きな特徴です。江戸時代には猪肉は薬とされたほどで、良質のたんぱく質やビタミンが豊富に含まれています。 豚肉における同じ部位で比較すると、ミネラル・タンパク質は猪肉の方が多いです。脂肪やビタミンB1は豚肉の方が多く、猪肉の脂肪は豚肉の半分以下ともいわれます。若い個体のほうが加熱後も肉質が柔らかく肉汁の量が多い傾向があります。 肉の質を左右するのが、と殺時の放血(血抜き)です。 血抜きをいかに丁寧にするかによって、臭みが全く変わってきます(※参考記事:イノシシの解体・捌き方)。さらに、料理で使用する前に、塩水につけてもみこんでおくと臭みが弱まります。 なお、猪肉にはいくつかの別称があります。「獅子に牡丹(取り合わせのよいもののたとえ)」の、「獅子」を「猪」にいい換えたことを語源として「牡丹肉(ぼたんにく)」と呼ばれたり、江戸時代に獣肉を食べることを良しとしない風潮が強かったことを名残として「山鯨(やまくじら)」と呼ばれたりもします。 もちろん、部位によっても、肉質に特徴があります。 ロース:脂肪の乗り、肉質共にバランスの取れた部位。肉の柔らかさに加え脂肪の旨みが濃いのが特徴。 バラ肉:一般的に三枚肉とも呼ばれる部位。もっとも脂肪の比率の多い部位です。脂肪の美味しさを堪能したいのであれば、バラ肉がおすすめです。 モモ肉:白身より赤身比率が多いのが特徴です。赤身の旨みを味わいたいのであれば、この部位がおすすめです。バラ肉と併せて盛付けると、赤白濃淡がはっきりした美しい盛付になります。 絶品イノシシ肉ジビエレシピ5選 うんちくも述べたところで、ここからは絶品イノシシ料理レシピを紹介してまいります。 その1:シシ鍋(牡丹鍋) 猪肉料理として、真っ先に挙げられるのが牡丹鍋。美味であることはもちろん、たっぷりの野菜と猪肉パワーで滋養強壮効果も抜群です。ちなみに、俳人・与謝蕪村が「静々に五徳にすえにけり薬食」と詠んでいますが、ここでいう薬食とは牡丹鍋のことです。 2~3人前でしし肉300gほど、薄切りにしたものを使います。具材としてベーシックなのは、豆腐・にんじん・ごぼう・長ねぎ・しめじ・白菜・もやし・水菜といったところです。薬味としてにんにくや生姜も少々加えます。 水は800cc程度で、味付けはお好みで。味噌味の場合、和風だしの素大さじ1、昆布・酒・みりん・味噌大さじ2、塩小さじ1/4を加えます。 しし肉と固めの野菜(にんじん・ごぼうなど)を煮込み、肉が柔らかくなったら水菜以外を入れ、火が通ったらさらに味噌で味を整えます。その後、ひと煮立ちしたら水菜を入れてさらにひと煮立ちしてから、いただきます。 その2:炭火焼き レシピも何も、猪肉をただ炭火で焼くだけなのですが、とにかく美味しいです。塩コショウで味付けするだけでも十分いけますが、焼いた肉と梅ニンニクを一緒に食べると最高です。イノシシパワーとニンニクパワーの合体技で、猟期の山歩きも元気いっぱいにこなすことができます。 ★元祖梅にんにくの販売ページはこちらから>> その3: 猪肉チャーシュー(焼猪) 猪肉(バラ肉)350gで2~3人前になります。下準備として、猪肉全体をフォークで刺し、味の染み込みと火の通りをよくさせておきます。その後、型崩れを防ぐためにタコ糸で巻きます。お店に売っているようなチャーシューにしたければ、巻きチャーシューに挑戦するのも良いでしょう。 タコ糸で肉を巻いたら、強火のフライパンで猪肉に焦げ目をつけます。 その後、圧力鍋に猪肉を入れ、生姜スライス、白ネギ、砂糖、しょうゆ、酒、水を入れ、圧力をかけ、蒸気がでてきたら、強火のまま10分、中火で10分、火を止め余熱で15分ほど煮込みます。 フタをあけ猪肉に竹串を刺してみて、透明な肉汁が出てくればOKです。後はフタをせず、ふたたび火にかけ、時々、猪肉を裏表転がしながら煮詰めていきます。 その4:猪肉のカツ(シシカツ) トンカツならぬ、シシカツです。猪ロース肉を使いますが、あらかじめ筋や大きな脂身を取り除いておきます。また、衣をつける前に、肉をビールやワインに長時間漬け込んでおくと、臭みもばっちり取れます。 その後、小麦粉→卵→パン粉の順に衣をつけていき、180℃ほどの油で揚げます。中までしっかり火が通るまで揚げれば出来上がりです。 その5:シシコツラーメン トンコツラーメンではなく、シシコツラーメンです。一般家庭でトンコツのラーメンスープを骨から作る時点でかなりの強者ですが、シシコツラーメンを作っている動画がありますので、こちらを参考に一度チャレンジしてみるのもありかも?ちなみに、専門店で食べる猪骨ラーメンはかなりおいしいです。 やはり一度は味わってみたい。プロの味 専門店で出される猪肉料理は、間違いがありません。ジビエ料理に対して苦手なイメージを持っている方も、イメージを覆すほどクセのない美味に驚くはずです。 まとめ 11月(一部地域では10月)には猪猟が解禁となりますので、まさにこれからが猪肉の季節です。自分で仕留めた猪の肉を美味しく料理するのも良し、猪肉の仕入・加工・調理法などを知り尽くしたプロの味に舌鼓を打つのもよし。 喰わず嫌いでチャレンジしたことが無い方も、是非一度ご賞味あれ。 こちらの記事もどうぞ>>猟師メシが教えてくれる滋味豊かなジビエの味
新・イノシシ対策。
イノシシによる農作物被害は、年間約50億円ほどに達しています。イノシシは繁殖力が高く、統計手法を用いた環境省による野生鳥獣の個体数推定結果によると、イノシシの個体数は30年前のおよそ3倍になっています。 個体数が増えると、その分農作物の被害も増えますが、作物の被害だけでなく農家の営農意欲も奪いとられるため、離農が増える結果となります。そのため、イノシシ対策として多くの自治体で罠の設置などによる捕獲・駆除が積極的に行われています。 最近では捕獲・駆除だけでなく、田畑や家の庭、生ゴミ置き場などにイノシシを寄せ付けないための新しい対策も行われるようになってきています。この記事では、そのうちのいくつかを紹介したいと思います。 オオカミロボット「スーパーモンスターウルフ」 イノシシを田畑などに寄せ付けないための対策としては、電気柵などの防護柵を設置することが一般的です。しかしながら、イノシシは学習能力が高く、「この柵は入ることができる」と学習すると、多少の困難はものともせず柵を突破しようとします。 柵はイノシシから田畑を守る最終防衛ラインであるため、突破されると直ちに新たな対策を講じる必要が出てきます。 そこで出てくるのがイノシシを寄せ付けないための威嚇対策ですが、単純な威嚇装置ではイノシシが慣れてしまい効果がなくなってしまいます。 それを踏まえ、北海道奈井江町の太田精器が開発したのがオオカミロボット「スーパーモンスターウルフ」です。 装置は全長65センチ、高さ50センチ。機器本体にマスクをかぶせ、外観をイノシシの天敵であるオオカミそっくりに作り込んでいます。 50種類以上の多種多様な威嚇音を出すことができ、イノシシが慣れてしまわないよう考慮されています。 また、赤外線センサーで動物の接近を感知すると、目の部分の発光ダイオード(LED)が赤く点滅し、首を左右に振って威嚇します。 太田精器は早くからLED鳥獣忌避装置の開発に取り組んでおり、スーパーモンスターウルフにもそのノウハウが活かされています。 イノシシは警戒心が高いため、普段とは異なるものを感知すると回避行動をとります。そのため、スーパーモンスターウルフを田畑周辺に設置すれば、イノシシが近づかなくなることが期待されます。太田精器ホームページ>> イノシシが嫌がる超音波装置 広島県では、人間の生活圏へのイノシシの侵入が相次いでいます。そのため、市街地にイノシシが近づかないようにする対策を望む声が多くあがっています。 そこで尾道市は、県立広島大学の重点研究事業・地域課題解決研究を活用して、市街地にイノシシを近づけさせない取り組み「イノシシ等有害鳥獣を近づけさせないプロジェクト」を開始しました。 このプロジェクトにより、今月6日に超音波を発する装置が尾道市の住宅地近くに設置されました。 この装置は、県立広島大学と民間の企業が共同開発したもので、人の耳ではとらえることのできない周波数の超音波を広範囲に照射できるというもの。所定エリア内に侵入したイノシシを超音波によって威嚇し、逃避させることを目的としています。 過去の研究によって、イノシシは超音波を嫌うことはないものの、特定の周波数においては忌避反応を示すことが確認されており、これまでにも北広島町や庄原市などの山間部において、実際にこの装置を用いてイノシシを追い払う効果が確認できたとのこと。今回もその有効性が確認できれば、人慣れしたイノシシでも田畑に近づけないようにできることが期待されます。 グレーチング付きU字溝「わたれません」 グレーチングとは、鋼材を格子状に組んだ溝蓋のことです。道路にある排水のためのU字溝や側溝、歩道などに使用されます。 グレーチング付きU字溝「わたれません」は、人や車は問題なく通行可能ですが、イノシシやシカなどにとっては通行しにくくするグレーチング付きU字溝です。「わたれません」には、直径8cm・深さが4cm程度の六角形のグレーチング構造が採用されており、イノシシが侵入しようとしても蹄でバランスが取れず踏ん張りがきかないようになっています。 くくり罠を設置するときにもよく考慮することなのですが(参考記事)、イノシシは足の踏ん張りがきかない箇所があると、踏み抜かずに足を引っ込めます(そのため、くくり罠を設置する場合はグラグラと不安定にならないよう注意を払います)。 また、警戒心も高いので、「わたれません」が設置してある部分は通行せずに引き返すことが期待されます。 https://youtu.be/nqA-kFkD0cM 金網や柵を設置する場合、入口まで完全に囲ってしまうと人や車も出入りできなくなってしまいますが、かといって入口をガラ空き状態にするわけにもいきません。そこで、道路上の対策として「わたりません」を活用すれば、柵を設置できない入口部分においてもイノシシの侵入を防止することができます。 「わたれません」の実証調査では、9割を超す侵入防止効果があったとのこと。「わたれません」のホームページ>> まとめ 現在のイノシシ対策の主軸は捕獲・駆除による個体数調整であり、今後もしばらくその流れは続くと思いますが、それだけでは根本的な解決にはなりません。 イノシシを地域に寄せ付けないための環境づくりや、住民の意識の持ち方、設備の整備など、総合的な施策が望まれます。人手が足りなくても、それをカバーできるような新しいイノシシ対策が望まれるところです。
捕獲獣(イノシシ・シカ等)の止めさしについて
※注意:この記事は、狩猟や鳥獣被害に理解のある方のみ閲覧ください。いわゆる動物愛護観点からのコメントには応じかねます。 近年、鳥獣被害対策として箱罠やくくり罠、囲い罠等を用いて、イノシシやシカ等を捕獲する取り組みが広がってきています。 それに伴い、捕獲するまでのノウハウや、食肉活用についての事例紹介は多く目にするようになりましたが、実際に獣が罠にかかった場合、どのような処理が必要となるかについては、あまり議論が多くないように感じます。 この記事では、捕獲した獣にできる限り苦痛を与えず、安全かつ速やかに「止めさし」を行う技術について、説明いたします。 止めさしの前に まずは、獣が罠にかかっている現場の状況をしっかりと確認することが重要です。イノシシの捕獲では、わなの見回りや捕獲個体の止めさしの際に、最も事故が発生する確率が高くなります。 いきなり近づいて確認せずに、まずは遠くから双眼鏡などを用いてチェックするのがベストです。遠くからゆっくりと近づき、傾斜のある場合は高いほうから徐々に近づくことが基本です。 くくり罠の場合は、以下がチェックポイントになります。 ▶ワイヤーが獣のどの部位を括っているか ▶括った箇所が抜けかかっていたり、切れかけたりしていないか ▶括った部分の体の部位が、ちぎれかけていないか ▶支点にしている部分からワイヤーが抜けたりしないか ▶獣の可動範囲はどの程度か 箱罠の場合は、以下がチェックポイントになります。 ▶箱罠に破損はないか ▶獣が逃げ出す恐れはないか(扉やストッパーの確認) 離れた場所から、手をたたいたり、大きな声を出して、捕獲された獣の反応を観察するとともに、捕獲された個体の近くに他の個体が潜んでいないかも確認しましょう。 止めさしの種類 止め刺しの種類としては、大きく分けて4つあります。 1. 銃器を使用する方法 最も威力が大きい方法です。基本的には一発弾のスラッグ弾を使用します。威力の高いプレチャージ式の空気銃が使用されることもあります。使用する銃器に応じて、「第一種銃猟」または「第二種銃猟」の免許と、「銃所持」の許可が必要です。 離れたところからでも止めをさすことができることや、大型の個体でも安全に対処できることがメリットです。 銃器を止めさしに使用する場合、注意すること まず、銃猟禁止区域など、銃が使用できない場所があるため、そのような場所に該当しないことを事前にチェックしておきましょう。 また、矢先に民家や人がいないか必ず確認し、バックストップ(弾が範囲を越えて行かない為の遮蔽物)をきちんと確保しましょう。 跳弾にはくれぐれも注意する必要があります。発砲の際は、銃所持者以外は銃所持者の後ろ側に立ち、できるだけ木などの陰に隠れるようにしましょう。 シカの場合は、頭部か首、心臓を狙います。またイノシシの場合は、眉間、こめかみ(耳のうしろ)、心臓を狙います。 しかしながら、心臓を的にした場合、損傷が大きかったり、弾の破片が肉に入り込んだりするため、食肉活用が難しくなる場合があります。 また、後処理の際に血抜けが悪くなり、くさみが強く残る場合もあります。 空気銃で頭部を狙う場合は、頭蓋骨に対して、弾の入射角度が垂直になるように狙いましょう。角度が浅すぎる場合、頭蓋骨で弾がすべって跳弾する可能性があります。 2. ナイフや槍といった刃物を使用する方法 刃物などで心臓や頸動脈を刺し、止めをさす方法です。ハンマーや木の棒で獣を失神させてから刃物で止めを刺す場合もあります。 前提として、獣の脚や鼻などをワイヤーやロープでしっかりと保定しておく必要があります。動き回る獣の止めをさすのは、相当難しく、危険です。 例えば、イノシシの場合、保定する道具には以下のようなものがあります。 鼻くくり イノシシの牙によるしゃくり上げを封じるための道具で、最も一般的な保定具です。イノシシの鼻や首、足に掛けることで、イノシシの動きを制限することができます。 くくり罠にかかったイノシシの動きをさらに制限する際に用います。棒を突き出した瞬間にロープを引き絞るように操作します。 ロープ・足錠 足を固定して、獣の動きを完全に封じます。 チョン掛け くくりわなのバネやワイヤーに引っ掛け、イノシシが自由に動ける範囲を制限します。 以下の動画では、鼻くくりやロープでイノシシを保定し、動きを封じています。 箱罠の場合は、網目に角材などを通して、獣の可動域を狭めていくのも一つの手です。あらかじめ装着していた可動式の床や天井で空間を狭める方法もあります。 シカを刃物で止めを刺す場合は、首に刃を入れて頸動脈を切るようにします。開口部をなるべく小さくして、食道まで切ってしまわないように注意しましょう。 イノシシを刃物で止めを刺す場合は、喉元や心臓などに刺しましょう。 箱罠の場合は、刺した後に獣が暴れて柄が折れたりする場合があるので、すぐに抜くよう心がけましょう。 なお、止め刺しに使う刃物については、軽犯罪法第 1 条第 2 号により「正当な理由がなく携帯すること」は禁止されているため、捕獲時以外は携帯しないよう注意が必要です。 こちらの山刀は、柄に棒などを差し込むことによって槍のようにできるので、おすすめです。 3. 電流で感電させる方法 自動車やバイクに使われるような小型バッテリーを用いて、捕獲獣に電極を接触させて電気を流す方法です。捕獲獣の動きがある程度制限されている状態でないと実施できない方法なので、獣の可動域が広い場合は、保定具等を使って脚や鼻などをしっかりと保定しておく必要があります。 食肉活用を前提とする場合、電気で獣を動けなくした後に、刃物類で止めを刺す方法が用いられます。電気で止めさしをする場合は、免許や許可が不要で、経験が浅い場合も対応ができ、血が流れないため罠や器具の汚れも抑えられます。 基本的には、片方の電極を顔や首などの上半身に、もう片方の電極を臀部やモモなどの下半身に接触させ、心臓に電気を流します。この際、脂肪が少ない部位を狙います。 金属でできた箱罠の場合、罠自体をアースにして通電する場合もあります。 電気の性質や装置の構造に関する基本的な知識があることが前提で、漏電や感電に十分注意する必要があります。電圧が高いほど、事故が発生する確率が高くなりますので、過剰に昇圧することは避けましょう。 事故を避けるため、使用時には、ゴム手袋やゴム長靴など、電気を通さない装備をすること、川の中や降雨時の使用を避けることを留意しておきましょう。 4. 炭酸ガスなどを用いた化学的な処理 箱罠で捕獲した際に、罠ごと専用の箱に入れて、箱に炭酸ガスを注入し、箱内に充填させ、殺処分する方法です。 ガスによる処理は、シカやイノシシのようにある程度体のサイズが大きい獣においては、装置自体が大掛かりになるため適していませんが、アライグマなどの小型獣に対しては有効な方法であり、広く用いられています(安楽死のための規定基準に従って実施する必要があります)。 まとめ 安全かつ迅速に処理を行うためには、状況に応じて様々な止め刺し方法を用意しておくことです。罠を設置する際に様々なケースを想定しておき、対処方法を予め用意しておきましょう。 ターゲット以外の獣がかかった場合は、放獣することも考えなければなりませんし、たくさんの罠に一度にかかる場合の対処方法も考慮しておく必要があります。銃による処置が自身で行えない場合は、銃猟師と事前に連絡をとっておきましょう。 あらかじめ、かかる労力や時間、費用などよくシミュレーションしておきましょう。 止め刺し後の処置については、こちらの記事をご覧ください>>イノシシの解体・捌き方【※閲覧注意】